ほぼ日刊イトイ新聞-いまさらフラガール!~おくればせながら、応援します。
- ️Fri Jun 01 2007
糸井 | 時期はずれなときにすみません。 映画が終わって、しかもDVDももう 発売になっちゃって、 ひととおりのキャンペーンも 終った時期ですよね。 僕らも、できたら上映前だとか 上映中にやったほうが いいに決まってるのわかってるんですけど、 DVDをあらためて見て、 『フラガール』の取材、 “いまさら”したほうが いいんじゃないかなと思ったんです。 世の中ってほら、 終わると終わったことに されてしまうでしょう。 だから、その意味では、今だったら、 いちばん損得抜きでの取材になるかなと 思ったんです。 この『フラガール』が当たって、 今はどんな気分ですか? |
李 | はい、当たりましたね。 ‥‥当たりましたけど、 強烈に僕の生活が変わったわけでは ないんで、実感が湧かないというのが 正直なところです。 知り合いとか親戚が初めて 僕の映画を見た、 ということはありましたけれど。 |
糸井 | 「あの子は何やってんだろう」って 思われていたのかな(笑)。 |
李 | 「なんか映画みたいなことやってるって 言ってたなあ。生活どうしてんだろう」 みたいな程度が、 「ああ、なんか、ちゃんとしてたんだ」 っていう感じです(笑)。 |
糸井 | それは大きく変わりましたね。 作ってるときには、 どうなるかななんてことは あまり考えないでやるほうなんですか。 |
李 | どんな人に見せたいか、っていうのは 作る前に大体は考えます。 例えば『フラガール』の前作の 『スクラップ・ヘブン』は 自分と同世代か近しい世代の、 好きな人に見てほしいと どこか決めていたところが あったんですけど、 今回はなるべく幅広い層で性別問わず、 いろんな人が見られるように ちゃんと作っておきたいっていう 感じだったんです。 けれども、そういう ザックリとしたイメージは持っても、 どういう展開をして、 どれぐらいお客さんが入って、 ってとこまで計算しようがないんです。 |
糸井 | 手応えみたいなものってのは、 撮影現場と編集室と 最低でも2回はありますよね。 |
李 | そうですね。 編集のときのほうが強いですね。 |
糸井 | けっこうしつこく撮っといて、 あとの編集でやる自分に任せる、 っていうふうな? |
李 | やっぱり編集で「これが足りない、 あれが足りない、こうすればよかった」 って必ず出てくるんです。 いまの日本で追撮(追加撮影)を やらせてくれることはありませんから、 全部が全部じゃないですけど、 ある部分に関しては 選択肢を増やしておきたいっていう感じで 撮影をしておきます。 |
糸井 | そうすると、現場の緊張感を 何回か作らないとならないですよね。 |
李 | はい、でもそれはスタッフとかキャストには 言えないんですよ、もちろん。 いかにもこれだけが 必要なんだっていうふうにして。 本当は今のでもいいけど、 もう1つこういうのがほしいってときは、 「今ので全然ありなんですけど、 言い忘れました、 すいません、ここをこうしてください」 って(笑)。 |
糸井 | 監督が若いからやりやすいってことも あるかもしれないですね。 少なくとも生意気に聞こえないもの(笑)。 例えば富司純子さんのように ものすごいキャリアがあって、 だれに何言われたって、 イヤなものはイヤだみたいなことが 言えるタイプの人でも、 監督の年齢だと、 「息子みたいな人が言ってんだし」(笑)。 |
李 | 娘の寺島しのぶさんと 確か同い年ですからね。 |
糸井 | 自分は若いなっていう意識はありましたか。 |
李 | どうしたって若いですから、あります。 富司さんも大スターで 本当にたくさん経験してらっしゃるんで、 多分ご自分の中でこれが正しいっていうのは あると思うんですけどね、 それが必ずしも僕と一致するわけじゃない。 歩き方一つとかでも、 意見が違ったりすることがあるんです。 意見が一致しないときは、 あまり正面からガツンとぶつかるよりは、 ミーティングタイムに入りますね。 現場を止めて、本当に時間をかけて、 僕と富司さんで話しました。 |
糸井 | とても大人な動きですね(笑)。 |
李 | ちゃんとできていたのかどうか わからないですけど‥‥。 |
糸井 | いや、さぞかしたくさん 撮影と編集に 時間をかけたんだと思って見ていましたよ。 予算も期間も条件があるわけだから、 その中であの『フラガール』を 作るというのを想像すると、 僕なんかゾッとしちゃうくらい すごいことだと思うんです。 予習・復習を役者さんたちが たくさんしたってことですか。 全部練習のいることですよね。 |
李 | そうですね。方言とダンスですね。 |
糸井 | 方言もそう? |
李 | ええ、前もってやりましたね。 でも、その場でもセリフ変えたりするんで、 それも富司さんから ちょっと怒られたんですけど(笑)。 方言の練習をきっちりやって来てるのに、 現場でセリフを変えられると、 また方言を直さなきゃいけないから 完璧度が落ちると。 |
糸井 | うんうんうん(笑)。 |
李 | まあ、そうですよね。 「でも、まあ‥‥うん、まあ、でも、 ちょっとやってみてください」 って(笑)。 |
糸井 | その「まあ、そうですよね」が ものすごくうまいね(笑)。 |
李 | でも本当に、おっしゃってることは すごくよくわかるんです。 やっぱり練習なさって 現場に入られてるんで、 それは困るだろうと思うんですけど、 でも、思いついちゃったものは しょうがないですからね。 |
糸井 | そこは、言い方が乱暴になるけど、 監督の映画なんですよね。 |
李 | 人が言えないことをいろんな人に 言わなきゃいけないっていうのが 監督の仕事なんです。 あとで素材を見たときに、 「ああ、やっぱり違った」 って思うのはすごくいやなんです。 その場で思いついたこと、 その場で思ったことは、 やっぱりその場で解決していかないと あとで解決できないので。 「ああ、こうやればよかった、 ああやればよかった」っていうのだけは 持ち越したくないんです。 本当にもう少しずつ、少しずつ 明らかに取り返しのつかない時間が どんどん過ぎていくのが撮影現場なので。 ぼくは、それをやってるだけなんです。 |
糸井 | 『フラガール』はロケの現場にいた時間が ものすごい長い映画ですよね、きっと。 |
李 | そうですね。丸々向こう(ロケ地)に 2ヶ月いましたんで。 |
糸井 | 2ヶ月あったら、そこの中でのちょっとした 空気の違いみたいなのは、 天気みたいにしょっちゅう 変わってますよね(笑)。 |
李 | みんなプロなので、もちろん 映画を作るために集まっていますけど、 いろんな流れがありますよね、空気が。 撮影現場ってライブなんで、 人間関係も変化していくし、 人間同士が集まっている場所では、 なにかあるものじゃないですか。 |
糸井 | うん、あると思う。 じゃ、「もう帰るとこないぞ」 っていうことで作っていくんですね。 |
李 | そうですね。 じっさいに映画の製作中は 僕は家に帰らないんです。 都内で撮影してても。 |
糸井 | そうですか! あれは2ヶ月ですか。 よくできたなって感じはあるでしょう、 やっぱり。 |
李 | でも、粗いところもけっこうあるんです。 実際には3時間近いものを 最初に作ってしまって‥‥(笑)。 いや、3時間になるとは さすがに思ってなかったんですけど、 2時間半は超えるだろうっていうのは 脚本の時点でわかっていて。 脚本は、ページで何時間とか 計ったりするんですけど、 踊りのシーンとかは 1行にしちゃったりして、 2時間ということにして始めたんです。 でも、まあぼくは 2時間半以内と予想していて、 それをどう編集で2時間15分ぐらいに 縮めようかなと思ってたら、 2時間50何分まで行っちゃったんで‥‥ ちょっと甘いですね(笑)。 |
糸井 | でも、何なんですかね、 その長さの関係って。お客さんが 「長くなかったよ」と言ってくれたら 長くたっていいですよね。 そうはいかないんですか。 |
李 | 僕は純粋にそう思うんですけど、 やっぱり映画会社としては いろいろあるんですよ。 |
山崎 | (シネカノン宣伝担当) そうはいかないんですよ。 |
糸井 | なんでいけないんですかね。 |
山崎 | 単純に映画館の入替えの時間とか営業時間。 今週いくら稼ぐには何回は回したいとか、 そういうことを考えて、 モーニングショーとレイトショーを入れると やっぱり1本2時間以内で 回していかないとならないんです。 1日3回とか2回の上映しか できない映画だと、結局お金が‥‥ そういう言い方をするとちょっと 身も蓋もないんですけど、 ビジネス的にいうとそういうことですし、 プリント代も高くかかっちゃいますし。 お年寄りとかでおトイレが近い人とかが 途中に出られちゃっても困りますし、 そういうことですね。 |
糸井 | だいぶ違うんですか。 |
山崎 | やっぱり違いますね。 それが1館だけでやってる映画だったら いいですけど、全国200館もあると、 ×200なので。 |
李 | 映画は、120(分)でキリよくみたいな。 実は120分50何秒あるんです(笑)。 |
糸井 | (笑)そこまではセーフだったんだね。 |
山崎 | まあ、2時間って書いちゃえば わかんないかなあって。 |
糸井 | 2時間だと、回せるんですか。 |
山崎 | 回せますね。 |
糸井 | 2時間15分は? |
山崎 | そうすると予告編がつけられない。 それはシネコンなんかで 上映するときにはキビシイとか。 そういうこともあったりしますので。 |
李 | メジャーな映画会社は 自分のところのチェーンの映画館を 持ってるんで、そこでできるから、 「2時間15分でも20分でも、 ま、よきゃあいいでしょう」 みたいな大らかさはあるんですけど‥‥。 |
山崎 | (うちは)大らかさはないですよ(笑)。 |
李 | 今回みたいにいろんな劇場と ブッキングしなきゃいけないときは‥‥。 |
糸井 | 今みたいにはっきり言われたほうが 楽ですね。 要するに、「おまえの話もわかる」 っていうとこから始められますね。 「何とかしてくださいよ」って言われても、 何とかしたくはないよね。 |
李 | そうですね、したくないですけど、まあ、 こっちも取引材料をいろいろ(笑) ストックしておいて、 最終的に2時間におさめるようにと 言って来るだろうなっていうのは 読んでたんで、 その代わり絶対これは残すぞ、 とかいろいろ。 |
糸井 | 李監督は、案外そういうテクを いっぱい持ってますね。 お若いわりに(笑)。 何で鍛えたんですか。 |
李 | いや、あの(笑)‥‥ 今まで3、4本撮ってる中で 少しずつわかってきたことです。 |
糸井 | 最初はもっと違った?(笑) |
李 | 最初はもう全然、それこそ純粋に、 2時間でも3時間でもいいじゃないかと 思ってたんですけど、 ま、そういう事情もあるし(笑)。 |
糸井 | バンドの連中がスタジオ代のこと 考えるみたいなことだよね。 |
山崎 | そうですよね、まさに。 |
糸井 | 昔のバンドは考えなかったんですよ(笑)。 あるいはもっと言えば、発売日さえ 平気で延期してましたよね。 そのときのノスタルジーが 僕らの世代だとあるもんだから、 うん、よく頑張ったなって 思っちゃうんです(笑)。 でも今の子はみんな そういうの上手になってますよね。 |
(つづきます!) |