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震災後のデマ80件を分類整理して見えてきたパニック時の社会心理[絵文録ことのは]2011/04/08

  • ️Tue Nov 03 2015

ツイッターの「東北関東大震災に関するデマまとめ」(jishin_dema)」さんが中心となって、主にツイッター上を流れるデマ情報とそれに対する分析の収集・告知が精力的に行なわれており、多くの人が情報提供や検証に加わっている。震災発生直後から1週間程度がデマのピークではあったが、現在も新たなデマは生まれつつあり、また過去に否定されたデマが生き続けているものもある。

そのツイートをもとに@omiya_fctokyoさんがTogetter - 「「東北関東大震災に関するデマまとめ」のまとめ」を作成され、わたしも気がついたら編集に参加している。

今回、この「デマまとめのまとめ」をもとに、震災発生後約1カ月間のデマ80件をピックアップ、パターン別にまとめてみた。

※この記事は震災後1か月足らずの時点でのまとめです。同年6月に発行した冊子『東日本大震災でわたしも考えた』では震災後のデマ100件の分類整理を行なっていますのでぜひこちらもご参照ください。

80件のピックアップについては、明確にデマと判断できるものをできるだけ多く拾った結果である(@jishin_demaさんが「誤解を招く表現」などと表記して「デマ」と断定することを避けたものも含まれる)。これらのもととなる大量の事例や検証の収集は@jishin_demaさんほか多くの方々の多大な努力によるものであり、以下の文章もそれに負うところが大きいが、最終的に編集・改編した結果についてはわたしが責任を有する。

事例は類似パターンごとにまとめ、そのなかで似たものを並べた上である程度古い順に配置している。その結果、厳密な配列順ではないことをご了承いただきたい。また、これらのデマについて、有名人(大手通信企業社長や大手女性下着会社社長等)がデマ拡散に関与した事例も多いが、今回はデマ流布者を糾弾する意図ではないので、その点については省略している。

4/10追記1。デマの中には、時間の推移によって真偽が変化するものがある。たとえば当初デマとされていたが、状況の変化によって事実に変わったり、逆に事実だったものが状況変化によってデマとなるものがある(「物資が届いていない」→物資が届いた後もその情報が流れ続けた場合、デマとなる)。3/30時点で東京ディズニーランドが「四月上旬再開」と報じられたことについてはオリエンタルランドが公式に「再開日は決定できない」と言っていたのでデマだった。4/10には「4/15再開決定、4/12に発表」と報じられ、当初の報道と近い日付になったため「当たらずといえども遠からず」状態になった。とはいえ、3/30時点では明らかなデマだったといえる。したがって、以下に挙げた「デマ」の中には将来的に事実になるものもあるだろうと思われるし、それについて必要なものについては補記すべきだと考えているが、流布時点で確証の取れないデマであったことは事実であることに留意されたい。

4/10追記2。「ここで例示していないからデマじゃない」などとは決して考えないでいただきたい。このページはデマを100%掲載しているわけではない。載っていなくてももちろんデマの可能性はある(特に新たに発生したデマはここに収録されていない)。一方で、デマかデマでないかを決めがたいものについては掲載していない。なお、ここで何らかの「悪意あるデマ」を否定したからといって、その対象者・対象団体の「他の悪事を隠蔽」するかのごとき意図はまったく存在しない。詳細な検証をこのスペースで完結させることは困難なため、一部でソース等を省略している部分もある。それに対して「お前の主観による決めつけだろう、信じられない」と思考停止するのではなく、疑問があれば検索していただきたい(それがデマを止める思考である)。最終的な判断はご自身で。

情報の混乱

当初「ヤシマ作戦」として節電することによって被災地を助けようと多くの人が呼びかけた(被災地からも「電気がついた!」とヤシマ作戦に対して感謝する声もあった)が、実際に節電が必要なのは東京電力管内だけであること、また被災地ではなく首都圏の電力不足への対応であったことなどが後にわかってきた。これらの情報の混乱に基づくデマは、善意による拡散を伴う。その結果、正しい情報がわからずに混乱することになる。これらのデマには、不安も混じっているようだ。

  • 「関西以西でも大規模節電の必要」はデマ。関西から関東方面に送れる限界量の電力を確保。(東日本大震災にかかる関西電力の対応について
  • 「筑波大学の連絡で約一時間後には茨城にも放射能が来る」との情報。「2011/3/15 13:00」とタイムスタンプまで付いているが、サイトを調べれば簡単に悪質なデマだとわかる。筑波大学 | 最新情報 | 福島原子力発電所の事故に係る対応について
  • 「天皇陛下が京都に避難された」との噂の情報元は2ch(元レス)。宮内庁が否定
  • 「農水省に非常事態通達「明日は出勤しなくていい」」は農水省の現役の方が否定。Twitter
  • 「今日の夕方、友人に防衛省の夫を持つ人が家族に「東京から家族を逃がせ」と言われたとのこと。その後、総務省の友人にも連絡したところ、総務省はほとんど空になっています。東京にいる方、逃げて!!」(3/16)はデマ。
  • 「東京電力アカウント@OfficialTEPCOは公式を騙った偽物」というのは誤りで、本物。
  • 「富士山から煙が出ている」はデマ。富士山周辺には大量のライブカメラがあるので自分で確認できる。

科学的・医学的知識不足によるデマ

科学的・医学的な専門知識がないと真偽がわかりづらいことについてはデマが発生しやすい。その亜種としてトンデモ/疑似科学的な情報も存在する(こちらは主唱者は本気でそう信じている場合が多く、判別は容易だが対策が難しい)。

  • 「市原火災で有害な雨が降る」のチェーンメールはウソ(読売新聞)。タンクの中身はLPガス。
  • 「放射線対策にイソジン・ワカメが良い」はデマ。放射線医学総合研究所の発表(PDF:ヨウ素を含む消毒剤などを飲んではいけません-インターネット等に流れている根拠のない情報に注意-)をご覧ください)。※4/10追記→コンブについてはヨウ素剤の代わりにはできないものの、一定の効果はあるとする報告もある(PDF)。ただし、この文献でも「ヨウ素含有量が多いコンブ等の食品を摂取することにより、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑えることについては、
    ・コンブでは、大量に経口摂取した上で、咀嚼・消化過程が必要でヨウ素の吸収までに時間がかかり、かつ、その吸収も不均一である・コンブの種類、産地など、それぞれのコンブに含まれるヨウ素量は一定ではなく、その必要量を推測することは極めて困難である
    ・対象者が、集団的に、迅速にコンブからヨウ素を摂取することは現実的に困難である
    等の理由により、原子力災害時における放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑制する措置として講じることは適切ではないと考えられる」とされている。
  • 「ホウ酸を食べると放射線を防げる」は嘘。ホウ酸は人体に有害なので絶対に食べてはいけない。
  • 「犬吠埼に風力発電所を立てれば原発は不要。東電はそれを隠している」は、もともと非現実的な話の模様。実証されていない結果であることの検証「千葉県の犬吠埼の沖合に風車をいっぱい建てたら東京電力の2005年の年間電力販売量にほぼ等しかった」のワナ。4/10追記→元論文はPDF:日本風工学会論文。ここに「海岸からの距離50km までの全海域を対象とした場合に,風力エネルギー賦存量は年間287TWhとなり,2005年の東京電力の年間電力販売量とほぼ等しい」(あくまでも「全海域」という仮想)であるが、「着底型基礎のみが利用可能である場合,……漁業権・景観等の社会的制約条件を考慮した最も厳しいシナリオでは賦存量は0.21TWh/yearに減少」「浮体式基礎を含めた場合,賦存量は大きく増大し,……最も厳しい社会的制約条件を課したシナリオでも賦存量は100.59TWh/year に達する」とある。後者ではかなりの電力がまかなえるが、「犬吠埼」のみに建てるという条件ではない。
  • 「日本の放射線量の基準値はWHOの数十倍(20倍、30倍等)」であるという情報について、「WHOの20倍だから危険」と即断するのはデマ。Togetter - 「放射線量の安全基準値がWHOの20倍で危険というのはデマ。」を参照。
  • 東大病院放射線治療チームがツイートした「水を煮沸することで放射性物質が取り除ける」は誤り。既に削除・訂正済み(訂正追加情報)。逆に濃縮の危険がある。これは専門家が誤情報を流布してしまった事例に当たる。
  • 「被ばくした作業員2名は東大病院で死亡し、私もその治療に当たりました。」という東大病院放射線治療チームのツイートは、今回の事故ではなく1999年東海村の話。前後のツイートも確認のこと。これは前後の情報欠落による誤読。
  • 「タバコにはポロニウムが含まれていて危険」はデマ。喫煙による被曝量は非常に軽微であることが計算されている(タバコを一日30本吸うと年間レントゲン300回分被曝するか(解決編))。4/10追記→危険は「ゼロ」ではないが、放射線による害よりもタバコの副流煙その他の害の方がはるかに大きい。
  • 「ヒマワリが放射能汚染を除去」は誤解を招く表現。「除去」というものの「無害化」ということではなく、あくまで「吸収・蓄積」であり、放射性物質が蓄積されたヒマワリを何らかの方法で適切に処理する必要がある。検証段階なので断定すれば現時点ではデマとなる。
  • 「原発がどんなものか知ってほしい」という文章は、数々の疑問や反発が挙がっているもので根拠たりえない。少なくとも学術的な信頼を得られていない。反論として「原発がどんなものか知ってほしい 第2版 - faireal.net」「原発がどんなものか知ってほしい?」などを参照。
  • 読売も報じた「山本堪 : ドイツ気象局 (DWD)による粒子分布シミュレーションの日本語訳」は、あくまでも「仮に放出されたとしたらこうなるだろうという予測」を計算したものであって、実際に起こる/起こっていることではない(「ドイツ気象庁(DWD)による粒子分布シミュレーション & 片対数グラフの説明」)。
  • 「4月7日夜の大きな地震で、仙台のNHKカメラに映った光は原発からのチェレンコフ光」はデマ。直後に停電が起きており、変電所でのショートが原因の可能性あり。方角が違うため原発と無関係であるのは確実。
  • 「命の三角形」理論(地震の際には机やテーブルの下に潜り込まず、その横に入れという説)は、科学的な立証がなされておらず、反論も多数ある(「命の三角形」を信じてはいけない理由アメリカ赤十字による反論(英文))。
  • 東日本大地震が地震兵器による攻撃である可能性 :: ベンジャミン・フルフォード」はもちろん根拠なしのトンデモ理論。阪神大震災の地震兵器説はオウム真理教も唱えていた。

誤報が訂正されずに流布/偏向報道

マスメディアによる誤報がきちんとした形で訂正されないために、それがデマとして根強く流れる事例も多い。記事削除だけではなく、訂正(名誉回復)報道が必要だが、充分に行なわれていない。

政治家個人を貶める意図でのデマ

政府関係者などに対して、政治的に貶める意図を背景としたデマが流されている。なお、この事例集では民主党議員と辻元清美氏に対するものが多いが、実際にこれらの人たちに対するデマが多い。それを否定しているのでわたしが現政権や辻元氏のシンパと勘違いされるかもしれないが、単にそういうデマが多く、また事実ではないということである。

  • 「仙谷前官房長官が11日徳島で地震に関する不謹慎発言」はソースなし。仙谷氏は夕方まで官邸にいた(首相動静―3月11日)。
  • 「菅首相がこの間も豪華な夕食をとってる」という話はデマ。首相動静を見ると基本的に首相官邸にこもっている。
  • 「鳩山前首相 「原発から半径200キロは住めない」 九州から」という投稿は2chが初出。1-8の投稿のIDがすべて同一で極めて不自然、かつ提示されたソースは無関係な記事。ちなみに鳩山氏は当日、北海道の日高地方で現地視察を行なっていた(鳩山前首相も日高各町を視察:苫小牧民報社)。
  • 「仙谷由人氏16日から訪韓」「仙石氏が韓国を訪問している」はデマ。元々の予定も15日からだったが12日に取りやめになっている(仙谷氏、韓国訪問取りやめ
  • 「小沢一郎被災で安否不明」は誤り。都内にいた(小沢氏はいずこへ 地元入り断念、都内で調整役専念)。
  • 「蓮舫発案のコンビニの深夜営業禁止より、節電の為全国パチンコ店1週間の営業規制を政府に訴えよう」という呼びかけに関して、蓮舫氏がコンビニ規制を発案したという部分がデマ(日テレNEWS24)。逆に「石原知事は、節電の協力を求める蓮舫節電啓発担当相に対し、午後10時に消灯することや、コンビニエンスストアの深夜営業の中止など、国として政令を出すべきだと訴えた」とあり、コンビニの深夜営業中止を実際に発案したのは石原都知事。
  • 「辻本補佐官が米軍救援活動に抗議(NHK)」はデマ。同じソースのコピペと思われる文面が数多くツイートされているが、肝心のNHK報道が存在しない。初出は2chの投稿。「辻本補佐官、米軍の救援活動に抗議。「事前協議なしの着陸は安全を無視した行為。」(NHK) 」として、辻「本」という誤字(正しくは辻元)も含めてそのままツイッターで拡散された。辻元清美事務所も公式に否定。
  • 上記デマに加え、「さすが阪神大震災の被災地で「自衛隊は違憲です。彼らから救援物資をもらわないで!」とビラを配った馬鹿者」と追記されたものも出回ったが、こちらもデマ(辻元清美氏と阪神大震災)。デマの初出が2007年。震災当時ピースボートが配布したちらしにもそのような趣旨は見られず。(※4/10 初出年を2009から2007に訂正。いずれにしても真実であれば阪神大震災直後もしくはその後まったく話題にならないのが不自然。)
  • 「辻本大臣原発内の瓦礫除去に戦車投入反対(NHK)」はニュースの存在が確認できないデマ。先のデマと同様の「辻本」という表記の誤りあり。出典は2ch
  • 「民主党(orピースボート)による物流阻止を梅沢富美男氏がミヤネ屋で証言」はデマ。本人がブログで完全否定(梅沢富美男オフィシャルブログ)。
  • 「ピースボート(PB)が福島で救援物資を足止め」はデマ。「辻元清美らの悪行!裏がとれたぞ!|スミスのブログ」において情報源とされる「あ~るさんの日記」の出所が不明。一方、ピースボートスタッフ大畑氏によれば、ピースボートは福島では活動していない(Togetter - 「ピースボートの物資横流しがデマである俺的解説まとめ」1234)。なお、辻元清美氏は15年前にピースボートを離れている。

外国からの支援を政府が邪魔するというデマ

外国からの支援を政府が妨げたという種類のデマは一グループにできる。

政策・政党・政権に対する批判的デマ

政府を批判する趣旨のデマも多く流れている。「そんなひどいことをやってるのか!」という怒りを増幅させる効果のあるデマだ。

その他の個人・企業・団体を貶めるデマ

外国人差別を背景としたデマ

特に悪質なのは、関東大震災時の「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマとまったく同じ類の、「韓国・朝鮮・中国人が暴動・略奪・レイプ等を行なっている」という根も葉もないデマである。これらのデマは特定の層が執拗に流していることが確認されている。このような差別意識を背景としたデマを流すような人間がいるということになれば、「日本人は低劣だ」と思わせることにもなりかねない。そういう行為こそが本当の意味での「反日」ではないかと思うのだが。

日本ユニセフ、アグネスへの攻撃

わたし自身はいわゆる「非実在青少年」問題において創作上の表現規制に反対する立場であり、その点においてアグネス・チャンさんなどに対しては批判的な意見を持っている。だが、その批判において、デマやウソで攻撃することは完全に誤りだと考える。これはアグネス擁護ではなく、アグネス批判者が「デマで攻撃するような奴ら」だと思われたくないという気持ちもあることを理解していただきたい。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」はよろしくない。

  • 「アグネスさんの折鶴紛失」は2chのネタ(不謹慎だけどお前らが爆笑しそうなニュース考えた)。スレタイにも明記。3/15に投稿されたにもかかわらず、記事の日付は3/18。
  • 「寄付まとめ:ブリトニー6億 ガガ゙1億 東芝5億 パナソニック3億+物 トヨタ3億 キヤノン3億 三菱東京UFJ銀、三井住友銀、みずほグループ、シティバンク銀、野村證券、大和証券 各1億 ビカス(ネパールカレー屋)10万円 大富豪アグネス・チャン:折り鶴」というコピペは意図的な編集。アグネスは折り鶴も折ったが、当初から募金もしていた(Togetter - 「「募金 アグネス 折り鶴」という不正確な情報の拡散」)。
  • 「日本ユニセフは国連のUNICEFとは無関係の団体だから募金してはいけない」という説に関して、少なくとも無関係というのは誤り。UNICEF公式より、アグネス・チャン氏写真UNICEF公式から日の丸をクリックすると日本ユニセフ協会に飛ぶ。
  • 「全額を日本の災害救済に使わない」という表記は公式サイトにも記載されているが、Apple Storeから米国赤十字社へ寄付できるページにも同様の文面が書かれている(該当部分強調画像)。おそらく、契約社会のアメリカにおける寄付行為の説明責任の常套句。当然ながら、これは「日本の災害救済」に一銭も使わないという意味ではない。
  • 「日本ユニセフが震災義援金を他用途へ」という情報は、余剰発生分のみ。日本ユニセフは自らの口座から拠出する1億円+集めた義捐金を本部に送り、原則全額支援に充てると明示(日本ユニセフ協会お知らせ)。※4/10追記→なお、「余剰」の定義が不明だという理由等で「着服」という言葉を使うよう主張する人も多いようだが、たとえば「ユニセフの別の事業に使われている」「団体の正当な活動資金として使われる」のであれば着服という悪意を含む言葉を使っては言えないことに注意。「着服」が事実だというのであれば、それが職員の私的行為に使われていることを証明する必要がある(着服という言葉を使わず、余剰金の使途や額を明確にせよという要求ならば妥当だとわたしは考える)。そもそも、ユニセフの目的は「世界の子どもの権利の保護」であることに留意。
  • 「フジテレビ募金の行き先は日本ユニセフ」はデマ。実際には日本赤十字。

被災地に関する不正確な情報

現地入りすることが難しいために、被災地に関する不正確な情報が流れた。

  • 「宮城県花山村が孤立」はデマ。花山村は合併で栗原市になっており、現在は存在しない。
  • 「いわき市田人で食料も水も来ていなく餓死寸前」はデマ。いわき市議が否定。14日から給水も始まっていた。
  • 「北茨城・高萩乳児餓死」はデマ。県議が否定、県による乳児の死者報告なし。「このままでは茨城で餓死者が出かねない」というツイートがあったが、17日ごろから「餓死者が出た」「赤ちゃんが亡くなった」に変化。
  • 「石巻の避難所で幼児が餓死」は未確認。3月15日の辰巳琢郎氏ブログ記事に端を発するが、本人が訂正と補足をしている(辰巳琢郎オフィシャルブログ)。
  • 「新幹線はやぶさ震災のため廃車」という情報について、公式発表はないが廃車の事実は認められず。4本中2本は地震発生時新青森の車庫にあり、2本は仙台で無事。「(東北新幹線再開後も)徐行運転では最高速のイメージが損なわれる。一方、新型車両が東北に元気を与えることも考えられ、すぐに運転再開させるか悩んでいる」との談話あり(JR東日本:大震災後は4割減収)。

好意的すぎる予断

悪意を持って貶めるデマは非常に多いが、一方で好意的な予断によって「あの人ならそういうことがあってもおかしくない」と思われて生まれたデマも多い。悪意がなくてもウソはウソという典型例。

  • 「ワンピースの尾田栄一郎さん15億円寄付」はデマ(アメーバニュース
  • 「トルコが100億円支援」はソース無しの上、記述の一部が明らかに間違い(Togetter)。トルコからの救援自体は実際にあった。
  • 「天皇陛下が地の神を鎮めるために徹夜で24時間の祈祷」は、ソースがブログ・2ch・Twitterとグルグル回ってどこにも行きつかない。明らかなネタ。神道的にもおかしい。
  • 「ジャッキー・チェンさんが全財産を東日本大震災の被災地へ寄付」は不正確で、二つのニュースが融合したもの。ジャッキーは、息子(ジェイシー・チャン=房祖名)に遺産は残さず、全財産を何らかの形で寄付する、と発表した(すでに資産の半分は寄付済み)。一方、今回の震災に対しては香港での4月1日のチャリティーイベント「愛心無国界 311燭光晩会」を主催、個人でも300万香港ドル(3200万円)を寄付した。この二つの情報が誤って融合したものだが、産経などの見出しが誤解を生みかねない表現だった。

ネタから出たデマ

もともとネタだったものを本気で取る人がいたためにデマ化したもの。だからといってネタ禁止というのも堅苦しいと思うのだが。最後に実害の少ないネタもここに入れておく。

  • 「枝野官房長官105時間ぶりに就寝」は、「枝野寝ろ(#edano_nero)」を踏まえたネタ(@krnmrr)。つまり、枝野「寝た」という「ネタ」だった。そもそも枝野官房長官が105時間寝てないという話も根拠なし。参考までに、地震発生からの経過時間は当時約80時間。
  • 「静岡ガンダム崩壊」は以前作られたネタ画像(Togetter)。
  • オバマ大統領の演説(諸君がまもなく赴く戦いは、人類史上最強の救出活動となるだろう)」は映画「インディペンデンス・デイ」の台詞の改変パロディ
  • 「「不謹慎」自粛を要請」の画像は偽新聞のネタ(Twitpic)。
  • 「【速報】原子力保安院が重大な隠匿・捏造」(写真等)は、タイトルに反して「実はズラだった」というネタであるが、実はそこで比較されている写真自体が別人のものだった(ズラか否かは不明だが、写真は別人)。
  • 「ACの『ぽぽぽぽーん』を歌っているのは矢野顕子」は誤り。歌は松本野々歩さん(公式サイト)。

デマを生み出すもの

以上、震災後1カ月足らずの間に流れて明らかなデマと判断できる80件をサンプルとして抽出した。

根本的には、このような混乱時に「信じたい情報」をつい信じてしまうという心理が背景に横たわっているように思われる。

これらを分類すると、「混乱」「無知」「誤解・誤読」「悪意・攻撃」「差別」「好意」「情報不足」「ネタをネタと理解できない」といった要因が見て取れる。これをさらにグループ分けすれば、「混乱・無知・誤解・情報不足」という情報の問題(真偽不明の情報が多すぎても混乱、少なすぎても混乱)と、「悪意や差別的意識にもとづいて意図的に流された攻撃的デマ」の二種類があることがわかる。

もちろん、悪意による攻撃を意図したデマが最も重大であることは言うまでもない。少なくとも、わたしたちは意図的にこのようなデマを作成したり、その流布に荷担したりしないようにする必要がある。そして、そういうデマに荷担することは、自分自身の品性を貶める(自分自身を損ない、傷つける)行為だと自覚する必要がある。

次いで、情報の混乱によるデマについては、どうしてもデマを見抜けない場合が出てくるだろう。これは速やかな訂正と正しい情報を拡散することで対処するしかない。ツイッターの場合なら、「間違ってました」とツイートするだけでなく、誤った情報を書いたツイートを即座に削除することが必要である(消さないといつまでも流布してしまう)。

最後に、ネタはネタとして「息抜き」と考えるべきだろう。騙されたら笑って頭をかけばいい。逆に言えば、こういう時期なのだから、シャレになるネタをやるべきだ。まあ中にはDHMO(一酸化二水素)ネタで激怒するようなおかしな人もいるわけだが、そんな人まで相手にしていたらきりがない。人を傷つけたり貶めたりするのではないユーモアは、今の時期だからこそ必要ではないか。

今回はとにかくざっとまとめてみたレベルである。社会学/社会心理学的には、これらのデータをもとにまた分析することが可能だろう。

追記

これらのデマの多くが拡散された背景には、上記のとおり「信じたい情報を信じる」という心理に加え、「重要な情報はみんなに教えてあげなければ」「こんな悪事は許せないので周知徹底させたい」という「善意」や「正義」がかなり大きなウェイトを占めていると考えられる。悪意によって発せられた情報も多いが、それが善意によって増幅するというのは、デマ対策を考える上でネックになる部分であろう。

この記事に多くの好意的コメントが寄せられているが、一件のみ「明らかなデマと火消しを混在させて真実を覆い隠す火消し記事。AppleStore(分配)と日本ユニセフ(着服)を一緒にすんなカス。」というツイッターコメントがあった。もし日本ユニセフが「着服」であるというのであれば、客観的かつ検証可能な、明確な根拠を示すべきである(根拠があればわたしも訂正に応じる)。しかし、「日本ユニセフは悪の組織なんだから着服に決まってるだろ」というレベルの根拠であればそれはデマと認定せざるを得ない。

このコメントのように、最初から頭ごなしに「真実を覆い隠すためだ」と決めつけ、「一緒にすんなカス」と感情的に批判する心的態度によって(本人は善意や正義や真実だと思い込んでいるにもかかわらず)悪意あるデマが生み出され、拡散され続けるのだということも確認しておきたい。

デマ関連ページリンク

以下のまとめサイトでは上記より詳細に個々の検証がなされているものも多い。また、ここで取り上げていないデマも多く含まれている。