五輪で東京に1000万人 過密都市ゆえの課題多く
- ️Mon Sep 09 2013
2013年9月10日 2:01
2020年の東京五輪開催が決まったことを受け、恩恵が予想される関連業界では早くも期待が高まる。五輪期間中の来場者数は延べ約1000万人。東京都と政府は観光客受け入れのためにインフラ整備を急ぐ考えだ。だが五輪開催は真夏の暑い時期。快適な移動手段や十分な宿泊施設をどう確保するか、過密都市ゆえの課題も多い。人手不足で施設の建設コストが膨張する懸念も浮上している。
交通網 1日92万人、どう移動

「夢の超特急」と呼ばれた東海道新幹線が整備されるなど1964年の東京五輪は長距離の鉄道輸送網発展の大きな転機になった。だが、今回は短距離を中心とした既存輸送網の利便性の向上が課題になる。
20年の東京五輪の目玉は、選手村から半径8キロメートル圏内に33競技場のうち28競技場を配置するコンパクトさ。成熟した大都市ならではの利点だが、逆にいえば、観光客などが狭い地域に集中し、会場間の移動に使う短距離交通網に大きな負荷ががかかる。
東京都の予測によれば、五輪期間中の1日当たりの会場来場者数は最大92万人。移動の核となりそうな東京メトロと都営地下鉄の乗降客数は1日当たり平均850万人だから、乗降客数が10%以上増える可能性がある。
さらに観光客で混雑しそうなのが、都心と臨海地区を結ぶ輸送網だ。20年の五輪では江東区の有明地区に8つの競技場が集中。都心と臨海地区を結ぶ新交通ゆりかもめとりんかい線だけでは輸送能力を超える可能性が高い。
現状、有明地区で最も人が集まるのはマンガ同人誌の即売会「コミックマーケット」や、花火大会の「東京湾大華火祭」だ。ゆりかもめでは通常1日10万人程度の乗降客数が25万人程度まで増え、増発しても乗れるまで1時間待ちとなることもある。
ゆりかもめは豊洲から勝どきまでの延伸構想があるが、延伸だけでは不十分との指摘もある。バスなどの代替交通手段を確保したり輸送頻度を上げたりするなどの対策も重要になる。
ゆりかもめの担当者は「従来のイベントは短期間なのでなんとかなっているが、連日となると無理。何らかの形で補ってもらうしかない」と交通網のさらなる整備の必要性を訴える。
開催時期が真夏ということも考えれば、猛暑の中での開催というリスクも考慮する必要がある。乗降客の待ち時間を短縮する工夫が欠かせない。
建設 人件費・資材高の懸念

東京都が試算する総工費は4554億円。既存施設を最大限活用するとはいえ11競技場と選手村が新設される。国内建設投資は1990年代前半のピーク時からほぼ半減しており、各社の期待は大きい。
五輪は技術力をアピールする絶好の機会だ。58年に竣工した国立競技場の建設を担った大成建設は、5万人収容の大工事を1年余の工期で仕上げて話題を呼んだ。
海外案件の受注拡大につながる可能性もある。鹿島の中村満義社長は「環境技術やバリアフリーなど成熟した東京を世界に認知してもらう絶好の機会になる」と話す。
施設整備のネックになりそうなのがコスト高だ。東日本大震災以降、建設労働者の不足が深刻化している。東京都内の建設現場では鉄筋工の賃金が1日1万6千円前後と震災前に比べて4割前後高い。都は五輪開催による建設部門の雇用誘発効果を約2万5千人と試算しており人件費高に拍車をかける懸念がある。
実際、人手不足によるコスト高が五輪施設建設に早くも影響を及ぼしている。
東京都が今夏、近代五種などの競技会場に予定されている「武蔵野の森総合スポーツ施設」(仮称、東京都調布市)の新築工事の業者を募ったところ、手を挙げる建設会社はゼロだった。都が示した施設の建設予定価格に対して「労務費の高騰を計算に入れると利益が見込めなかった」(関係者)ためだ。
こうした人手不足に対し、各社は技術的な工夫で対応する考えだ。例えば現場で建設資材を自動運搬する搬送機は人件費を抑制できる。また工場であらかじめ大量生産したコンクリート部材の活用も現場での作業を大幅に減らせる。
景気回復を受けた資材価格の上昇も懸念材料だ。建設用鋼材のH形鋼は都心の再開発などでオフィスビル向けの需要が堅調だ。東京では現在、1トン7万4千~7万6千円(問屋仲間、ベースサイズ)と1年9カ月ぶりの高値で取引されている。
宿泊施設 IOCの要求満たすが…空室不足の恐れ
質・量ともに十分な宿泊施設の確保も問われる。東京招致委員会は国際オリンピック委員会(IOC)の要請を上回る4万6千室を来訪者用に確保し「この量で十分」(東京都幹部)とするが、競技場が集中する臨海部は手薄だ。都内のホテルは高稼働が続き、ビジネス需要などが一段と高まれば大会期間中、空室が確保しにくなる可能性もある。
東京都がIOCに提出した立候補ファイルによると、競技が開かれる中心エリアから半径10キロ圏内のホテルは8万7千室超。さらに建築が承認されたホテルは24軒、4295室ある。
2014年に都内で米ハイアット・ホテルズや米マリオット・インターナショナルなど外資系ホテルが、15年春には藤田観光が新宿に970室の大規模ホテルを開業。客室数は承認分だけで約5%増える計算だ。ただ、競技場が集中する江東区有明地区周辺には目立った計画はなく、便利な宿泊施設は限られそうだ。
全体でも通常の需要が一段と盛り上がれば不足する可能性もある。足元の都内主要19ホテルの客室稼働率は7月が83.6%で17カ月連続で前年同月を上回る。景気回復によるビジネス利用の拡大と、ビザ緩和などを背景にした訪日外国人の増加が主な要因だ。
ロンドン五輪では開催決定から実施までに客室数が2割増えたがそれでも不足したとの指摘もある。米不動産サービスのジョーンズラングラサールの沢柳知彦マネージングディレクターは足元の高稼働と今後の需要増を期待して「新規開業計画がこれから出てくる可能性がある」とみる。
外国人への対応強化も課題だ。東京プリンスホテル(東京・港)は五輪開催を機に海外の個人客が一段と増えるとみて、従業員向けに毎週実施する英語、フランス語、中国語の講義をさらに拡充する考えだ。他のホテルも同様の対応を進めるところが増えそうだ。
1964年の東京五輪の際には1日3万人が来日する想定で、ホテルオークラ東京(東京・港)や東京プリンスホテル(同)、ホテルニューオータニ(東京・千代田)など都市ホテルが相次いで開業。東京を代表する有力都市ホテルがそろった経緯がある。既に一定の客室数を持つ今回は、大会後の供給過剰懸念もあり、極端な増加は見込みにくそうだ。