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岨手由貴子監督による映画的アプローチ 「すべて忘れてしまうから」に生じた“良質な余白と余韻”

2015年に公開された「グッド・ストライプス」で長編商業映画デビューを果たした岨手監督。21年公開の長編監督第2作「あのこは貴族」が、国内外の映画祭に出品され高い評価を獲得。今後の日本映画界をけん引していく監督のひとりである。

岨手由貴子監督(メイキング)
岨手由貴子監督(メイキング)
(C)Moegara, FUSOSHA 2020

ハロウィンの夜に突如姿を消した恋人をめぐる、ミステリアスでビタースイートなラブストーリー。初の配信ドラマとなった阿部(ミステリー作家“M”役)のほか、尾野真千子(“M”の失踪した彼女“F”役)、Chara(“Bar 灯台”のオーナー役)、宮藤官九郎(“Bar 灯台”で働く元バンドマンの料理人役)、大島優子(謎の美女役)、酒井美紀(F”の姉役)が出演。エンディング楽曲を毎話異なる10組のアーティストが担当するという点にも注目が集まっている。

第1話「まさかとは思うけど、殺してないですよね?」
第1話「まさかとは思うけど、殺してないですよね?」
(C)Moegara, FUSOSHA 2020

味わい深くレトロ、しっとりとした大人のドラマに、ミステリアスなラブストーリー要素が溶け込んだ本作は、上質な雰囲気に醸し出している。それを強調しているのが、16ミリフィルムで撮影された映像だ。昨今の日本映画でもフィルム撮影は、年々減っている。そのうえで「連続ドラマ作品でフィルムを使用する」。この点について、岨手監督は「記憶というものをテーマにしたストーリーに、あの粒子の美しさがピッタリ。この物語は本当にフィルムが似合う作品です」とフィルム撮影の意義を感じていたようだ。

第2話「友達いないんですか?」
第2話「友達いないんですか?」
(C)Moegara, FUSOSHA 2020
第3話「あなたの関節を全部折ります」
第3話「あなたの関節を全部折ります」
(C)Moegara, FUSOSHA 2020

初のドラマ作品を手掛けることになった岨手監督は、余白と余韻をたっぷりと含ませる“映画的なアプローチ”で撮影に臨んでいた。大切にしていたのは“画面で描かれていないことを観客が読み取ろうとする作り手と観客のコミュニケーション”。これを重視することで、観客への信頼を置いていたと語っている。

岨手由貴子監督(メイキング)
岨手由貴子監督(メイキング)
(C)Moegara, FUSOSHA 2020

特に、本作の内容については、言語化が難しい作品だったと明かしている。「例えば、『どうして大人になると友達がいなくなるのか?』という問いに対して、一般論として出るような答えじゃないところを描いている。大枠からはみ出してしまう感情とか人物像を描いているから、観客側が補完することでしか説明ができないんです」と説明。ただ、わかりやすく描くのではなく、“わからないことを考える”映画的な楽しみ方を提供しているのだ。

「すべて忘れてしまうから」は、ディズニープラス「スター」で独占配信中。

あのこは貴族

あのこは貴族

劇場公開日 2021年2月26日

上映時間 124分 (G)

評価・レビュー 3.7 (239件)