イングラムM10 - Wikipedia
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![]() サプレッサーを装着したM10 | |
イングラムM10 | |
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種類 | 短機関銃 |
製造国 |
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設計・製造 | ゴードン・イングラム |
年代 | ベトナム戦争-現代 |
仕様 | |
種別 |
短機関銃 マシンピストル |
口径 |
9mm 45口径 |
銃身長 | 146mm |
ライフリング | 6条右回り |
使用弾薬 |
9x19mmパラベラム弾 .45ACP弾 |
装弾数 |
32発(9mm仕様) 30発または40発(45口径) |
作動方式 |
シンプルブローバック方式 オープンボルト撃発 |
全長 |
296mm(ストック収縮時) 548mm(ストック延長時) |
重量 | 2,850g |
発射速度 | 1,090発/m |
銃口初速 | 366m/s |
有効射程 | 50-70mまで |
歴史 | |
設計年 | 1964年 |
製造期間 | 1970年-生産継続中 |
配備期間 | 1970-1975年 |
配備先 |
アメリカ軍 アメリカ警察 ブラジル軍 フィリピン軍 |
関連戦争・紛争 | ベトナム戦争 |
バリエーション |
イングラムM11 コブライなど |
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イングラムM10(英: Ingram Model 10)は、アメリカ合衆国で設計された短機関銃である。MAC-10とも呼ばれる。小型であるためマシンピストルに分類されることもある。

第二次世界大戦後、ゴードン・イングラムが銃器設計者として最初に手がけた短機関銃はM5と呼ばれるモデルだった。この名称は当時アメリカ陸軍で制式採用されていたM3短機関銃および将来採用されるであろうM4短機関銃に次ぐ製品という意味合いで選ばれたものであり、M1からM4までのモデルは存在しない。その後、M5の設計を引き継いだM6短機関銃を発表する。続くM7からM9もM6を発展させた設計だった[1]。
1964年、イングラムはアーキアーガ・アームズ社(Erquiaga Arms Company)在籍中にM10と名付けた新型短機関銃の設計を行った。M9までのモデルとは一線を画す単純さを重視した設計で、いわゆる第三世界での販売を想定したモデルだった。最初期の試作モデルはフルオート射撃のみ可能な9x19mmパラベラム弾仕様で、イギリス製ステン短機関銃と弾倉の互換性があった。しかし、この時点では注文もなく追加生産も行われなかった。1969年、イングラムはアメリカ政府向けの官給用サプレッサーの設計・製造を手掛けるSIONICS(英語版)社に移る。同社のオーナーだったミッチェル・ウェーベル三世(英語版)は元OSSエージェントで、彼は小型軽量なM10にサプレッサーを取り付ければ理想的な特殊作戦用短機関銃になりうると考えた[1]。こうしてM10の設計には改良が加えられ、サプレッサーを取り付けた.45ACP弾仕様のモデルが特殊作戦用短機関銃としてベトナムの前線で試験運用された。後に.380ACP弾を亜音速化した消音効果の高い銃弾が開発され、これを用いる小型モデルとしてM11が設計された[2]。1970年にはイングラムとウェーベルが共同創業者となりミリタリー・アーマーメント・コーポレーション(英語版)社(MAC)が設立されている[1]。MAC-10の名はこの時の社名に由来する。
1974年、映画『マックQ』の劇中でジョン・ウェインがサプレッサー付きのM10を使用した。アメリカにおいては、この映画によってM10の存在が広く認知されることとなった[2]。
1975年にMAC社が倒産すると、競売に掛けられたMAC社の資産を購入した元従業員らによってRPB インダストリーズ社(RPB Industries Inc.)が設立され、M10の販売および生産はここで続けられた。しかし、1982年にはRPB社も倒産する。1983年、SWD社(SWD Inc.)がM10に関する一連の権利を購入した。1986年には旧MAC社の技師だったジェームズ・レザーウッド(James M. Leatherwood)がM10の製造権を購入して再びMACの名を冠したメーカーを立ち上げたものの、1980年代後半に倒産し、残されていた部品などはSWD社によって再購入されている[1]。その他にもバルカン・アーマメント(Vulcan Armament)やコブライ・カンパニー(英語版)など、いくつかの企業で現在までコピー生産やクローン設計が行われている。
作動方式はオープンボルト、シンプルブローバック方式であり、角柱状のL型ボルトを採用したため小型軽量となっている。
多くの部品はスチール板をプレス加工して成形されており、加工の容易な形状もあって非常に生産性に優れている。また、構造が単純な事もあり、作動不良の発生し難い頑丈なデザインとなっている。
レシーバーの左側面に回転式セレクタースイッチがあり、セミオートとフルオートの切り替えが可能である。安全装置はスライド式のスイッチがトリガー前方にあり、手前にスライドさせることで安全装置が働き、シアーとトリガーが固定されるほか、ボルト閉鎖状態でコッキングハンドルを90度回転させることにより、ボルトを固定することもできる。また、サプレッサーを装着することを前提としているため、銃身先端の外周にはネジが切られている。
フルオート射撃の発射速度は非常に高く、32連装弾倉を1.5秒ほどで撃ちつくしてしまうため、その操作にはある程度の習熟が必要だが、同一標的に大量の弾丸を撃ち込めるため高い殺傷力を持つ。登場した当時は理想的な近接戦闘武器と考えられていた。
.45ACP弾モデルの弾倉はM3短機関銃のものと互換性がある。試作段階ではM3短機関銃の弾倉に一定の加工を施す必要があったが、製品化された際には無加工で使用できるように改良された。M10A1として知られる再設計されたモデルでは、専用のアダプタを取り付けることで.45口径から9mm口径へ使用弾を変更することができる[1]。
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画像 | ![]() |
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使用弾薬 | 9mmパラベラム弾 | 9mmパラベラム弾 .45ACP弾 |
9mmパラベラム弾 | 9mmパラベラム弾 .45ACP弾 | ||
装弾数 | 25発[注 1] | 20/44発[注 1] | 20・30発[注 1]・100発[注 2] | 32発(9mm)・30発・40発(.45) | 20発[注 1] | 15・30発[注 1] |
銃身長 | 120 mm | 182 mm | 200 mm | 146 mm | 197 mm | 130 mm |
全長 | 339 mm | 340 mm/555 mm[注 3] | 363 mm/565 mm[注 3] | 296 mm/548 mm[注 3] | 360 mm/600 mm[注 3] | 282 mm |
重量 | 2.8 kg | 1.5 kg | 2.8 kg | 2.85 kg | 2.7 kg | 1.3 kg |
発射速度 | 1,185発/分 | 600–800発/分 | 700発/分 | 1,090発/分 | 950発/分 | 850–900発/分 |
イングラムM10は、ベトナム戦争初期の1964年に開発された。そのため、アメリカ軍が同銃に興味を示し、特殊部隊用の火器としてテストを行った後、SIONICS社製のサプレッサーを装着、米軍特殊部隊が使用した[3]。
当時はこのクラスの大きさを持つサブマシンガンが他に存在しなかったため、アメリカ警察の特殊部隊であるSWATなどでの使用例もある。
西側諸国の軍においても特殊作戦用に装備された[3]が、精密な射撃が行えないため誤射が発生している。現在では命中精度に優れるH&K MP5がその役割を担っているため、本銃はこうした用途では使用されない。

1969年、SIONICS社で設計されたM10の小型モデル。設計後すぐに社名がMACに変更されたため、M10と同様にMAC-11とも呼ばれ、大量生産はMACで行われた。イングラムM10をスケールダウンし、.380ACP弾(9x17mm弾)を使用できるように再設計された。当初は9x19mm弾を使用する予定だったが、制御しきれず弱装弾の.380ACP弾に選定された。サイズは大型拳銃並みとなり、ボルトの後退距離が短くなったことにより連射速度がさらに高速化された。大きさは小さいが、外見・内部構造ともM10と同様の設計となっている。
軍用以外にもセミオートのみの市販モデル(拳銃型)が存在し、民間に販売されている。しかし、初期の市販モデルはシアー改造部品を組み込むことで容易にフルオート射撃が可能になるなどしたため、TEC-DC9同様に犯罪に多く用いられた。これにより、一時は販売すらままならなくなり、それ以降は改造がしにくいよう改良を施した製品が再発売された。
軍用モデルと同じく、銃身にはサプレッサー用のネジ加工が施されている。このネジを利用してエクステンションバレルを装着することが可能で、オプションとして用いられている。
MAC社倒産後はSWD社やコブライ社が製造権を取得し、これら2社は独自の改良を加え、現在も販売を継続している。
SWD M11/9 もしくは コブライ SMG
[編集]

写真の銃には本来ついているはずの引き出し式銃床が無い
MAC社倒産後に製造を受け継いだSWD社・コブライ社の改良型。高速連射に伴う、操作性の悪さや作動不良などを改善すべく、1979年に再設計した。口径はM10と同じ9x19mmである。レシーバーの後方を延長しており、全長を長くすることで、ボルトの後退距離を長くした。これにより連射速度を低下させ、安定性を図った。M10・M11の発展型の中では最も高性能の製品である。ただし、コブライ SMGについては、本質的な改善には至っていない[3]。また、上記の市販型(拳銃型)の販売を考慮し、クローズドボルト仕様の製品も存在する。これにより、ボルトが2つに分割され、閉鎖状態からの発射が可能である。
現在、MAC-11タイプのピストルを製造するマスターピース・アームズ社、9x19mmや.45ACP以外に.22LR仕様のモデル、ピストル以外にもカービンタイプも製造している。イングラム製のようなプレス加工ではなく、切削加工による製造がされている。
イングラム、特にM11/9は安価であり、また、1986年の民間用フルオート火器規制(FOPA86)が始まる前に大量に生産されたことから、アメリカの民間人にとって最も入手しやすいサブマシンガンである[4]。だが、これをアメリカで行われるフルオート銃を使用した射撃競技に使おうとすると、以下のような様々な問題が発生する。
- 高い連射速度
- 銃のブレが激しく、無駄弾が多くなりがちであり、頻繁な弾倉交換を強いられる
- 射手が意識して発射弾数を制御することが難しい 小型・軽量
- フルオート火器の大きな反動を射手が受け止め、制御するには構えが不安定になりすぎる
- 前後照準器間の距離が短すぎ、照準精度が低水準となる 単純な構造
- 照準器が貧弱で調整不能
- ガタの多い銃床と、粗末なストラップによる構えは不安定になりすぎる
このように、射撃競技ではイングラムの特徴が裏目に出てしまう結果となる[4]。そのため、これらの難点を克服するための改造キットが各社より発売されている。これらを組み込むことで、フルオートでの命中精度をH&K MP5並にすることすら可能である[4]が、元になるM11がオープンボルト式であり現在の軍隊や法執行機関には向いておらず、これらのキットは射撃競技用としてのものである。
- ^ a b c d e “Big Mac Attack!”. SmallArmsReview.com. 2015年11月5日閲覧。
- ^ a b “MAC 10”. SmallArmsReview.com. 2015年11月4日閲覧。
- ^ a b c 床井雅美『軍用銃事典 改訂版』並木書房 219頁 ISBN 9784890632138
- ^ a b c 『月刊Gun』2008年11月号 Etsuo Morohoshi「アメリカマシンガン事情19・MAX-11SFシステム」国際出版
ウィキメディア・コモンズには、MAC-11に関連するメディアがあります。