慣性モーメント - Wikipedia
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慣性モーメント | |
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量記号 | I |
次元 | L2 M |
種類 | 2階テンソル |
SI単位 | kg m2 |
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慣性モーメント(かんせいモーメント、英: moment of inertia)あるいは慣性能率(かんせいのうりつ)、イナーシャ I とは、物体の角運動量 L と角速度 ω との間の関係を示す量である。
質点系がある回転軸まわりに一様な角速度ベクトル ω で回転するとき、質点系の持つ角運動量ベクトル L は次のように書ける。
ここでmi は i 番目の質点の質量、ri は回転軸上の原点との相対座標でありriはその大きさである。この式からわかるように、L は ω と向きは必ずしも一致しないが、ω を線形変換したものになっている。つまり、その線形変換をIとすると、
と表せる。この変換 I は2階のテンソルであり、LとIの各成分は
という形に表される[2]。ここに δjk はクロネッカーのデルタ、ri, j はベクトル ri の j 成分である。I を行列表示すると
となる。この定義から I は対称テンソルである。この2階のテンソル I を慣性モーメントテンソル、または簡単に慣性テンソルと呼ぶ[2]。また、慣性テンソルの対角成分 Ixx、Iyy、Izz を(それぞれ x、 y、 z 軸に関する)慣性モーメント係数(英: moment of inertia coefficient)と呼び、 Ixy、Iyz、Izx は 慣性乗積(英: products of inertia)と呼ぶ[3]。
なお、質量分布が連続的に広がっている場合には、その物体の慣性テンソルは密度 ρ を用いて
となる[4]。
物体をある回転軸まわりに回転させたとき、ωと同じ向きをもつ単位ベクトルnをもちいると、回転軸にそった角運動量成分は次のように与えられる。
ここで、ω = |ω|は角速度の大きさである。
ここに与えられたスカラー量 をその軸まわりの慣性モーメントと呼ぶ[5]。
慣性テンソル行列は実対称行列なので、適当な直交座標系 { e1, e2, e3 } を選ぶことで対角化(すなわち Ixy = Iyz = Izx = 0 と)することができ、そのときの座標軸を慣性主軸、慣性モーメント { I1, I2, I3 } を主慣性モーメントと呼ぶ[6]。慣性主軸座標系では角運動量は
と単純に表すことができる。
重さの無視できる長さ L の棒の両端に、質量 m 、M の物体がくっついたものを考える。棒の適当な位置に回転の中心となる点を定め、そこから両端までの腕の長さをそれぞれ a、L - a とする。このとき、中心に対する慣性モーメント I は、
と、計算される。この式から分かるように、慣性モーメントは、中心(回転軸)のとり方によってその値が変わる。中心として系の重心をとったとき、慣性モーメントは最小となる。すなわちもっとも回しやすい。
半径 a 、全質量 M の、一様な密度 ρ = M / πa2 をもつ円板の、中心軸まわりの慣性モーメントは
となる。
これは中心から半径 r 、幅 dr << r のリングの質量 dM を考えると
より、このリングの慣性モーメント dI が
だから
より求めることができる。
円板外半径 a 、くり抜き内半径 b 、全質量 M のリング状円板では、前出の dI を用いて
となる。
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一般に、剛体の慣性モーメントは、剛体の質量に比例し、質量が軸から遠くに分布しているほど大きくなる。
また、回転軸が重心を通るとき慣性モーメントは最小値 IG をとり、軸が重心から距離 h だけ離れている場合、その軸の周りの慣性モーメント Ih は
となる[7]。
慣性テンソル I の物体が角速度 ω で回転しているとき、その回転に伴う運動エネルギー T は
と表示できる[8]。
- 回転半径
- 慣性モーメント I は物体の質量 M に比例するから、
- と書くことができる。この κ は長さの次元を持ち、回転半径と呼ばれる[7]。 はずみ車効果
- 慣性モーメントと同じ意味を持つ物理量として、直径 D を用いて定義されるはずみ車効果 GD2 がある。
工学での応用として、回転軸に慣性モーメントの大きい回転体を取り付けた装置をフライホイール(はずみ車)という。これは、回転速度の急激な変化を抑止したり、回転によるエネルギーを保存する目的で使用される。
- ^ (ゴールドシュタイン 1983, p. 248) 式(5-2)
- ^ a b (ゴールドシュタイン 1983, p. 254)
- ^ (ゴールドシュタイン 1983, p. 249)
- ^ (ランダウ & リフシッツ 1986, p. 124)
- ^ (ゴールドシュタイン 1983, p. 255) 式 (5-19)
- ^ (ランダウ & リフシッツ 1986, pp. 124–125)
- ^ a b (戸田 1982, pp. 167–175)
- ^ (ランダウ & リフシッツ 1986, pp. 122–124)
- ^ 谷腰欣司『小型モーターのしくみ』電波新聞社、2004年、24頁。ISBN 4-88554-775-X。
- ^ 堀野正俊『機械力学入門』理工学社、1990年、97頁。ISBN 4-8445-2253-1。
- ^ 谷腰欣司『小型モータとその使い方』日刊工業新聞社、1987年、21頁。ISBN 4-526-02147-4。
- ^ 電気学会 電気規格調査会 標準規格『JEC-2130 同期機』電気書院、2016年、8頁。
- ^ 日本工業標準調査会『JIS B 0119 水車及びポンプ水車用語』日本規格協会、2009年。
- ^ 電気設備学会編『電気設備用語辞典』オーム社、2008年。ISBN 978-4-274-20962-8。
- ^ モータ技術用語辞典編集委員会編『モータ技術用語辞典』日刊工業新聞社、2002年、52頁。ISBN 4-526-05034-2。
- ^ 電気用語辞典編集委員会編『電気用語辞典』コロナ社、1997年、643頁。ISBN 4-339-00411-1。
- 戸田, 盛和『力学』岩波書店、1982年。ISBN 4-00-007641-8。
- 谷腰, 欣司『小型モーターのしくみ』電波新聞社、2004年。ISBN 4-88554-775-X。
- ゴールドシュタイン 著、瀬川富士、矢野忠、江沢康生 訳『古典力学 (上)』吉岡書店〈物理学叢書 (11a)〉、1983年8月25日。ISBN 4-8427-0208-7。
- ランダウ, L. D.、リフシッツ, E. M.『力学』広重徹, 水戸巌 (訳)(増訂第3版)、東京図書、1986年、69-73頁。ISBN 978-4489011603。
量 | 回転運動 | 並進運動 | ||
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力学変数(ベクトル) | 角度 | 位置 | ||
一階微分(ベクトル) | 角速度 | 速度 | ||
二階微分(ベクトル) | 角加速度 | 加速度 | ||
慣性(スカラー) | 慣性モーメント | 質量 | ||
運動量(ベクトル) | 角運動量 | 運動量 | ||
力(ベクトル) | 力のモーメント | 力 | ||
運動方程式 | ||||
運動エネルギー(スカラー) | ||||
仕事(スカラー) | ||||
仕事率(スカラー) | ||||
ダンパーとばねに発生する力を 考慮した運動方程式 |
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