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中村文則の書斎のつぶやき:五輪利権のために

  • ️毎日新聞
  • ️Wed Jun 02 2021
中村文則さん=東京都千代田区で2020年1月23日、宮間俊樹撮影
中村文則さん=東京都千代田区で2020年1月23日、宮間俊樹撮影

 日本の政治は、異次元の領域に入ったのだろうか。

 感染力の強いインドの変異株については、3月下旬には既に広く報道され、インドの感染者数は急増していた。4月に入り、その感染者数は爆発的な増加の段階に入っていたが、日本が対インドの水際対策を「強化」したのは、恐るべきことに5月1日になってからだった。しかもかなりザルの対策で、渡航者の隔離期間をやっと10日間まで延ばしたのは、なんと5月28日からになる。

 この異常な遅れ。正気とも思えない。こんな水際対策をしておきながら、国民には自粛を強いている。

 その政府が今、五輪開催を強行しようとしている。自分たちと関連企業のことしか、考えていないのかもしれない。五輪をし、日本人選手が活躍すれば「何だかんだいってやってよかった」となり、選手の活躍をなぜか自分たちの手柄のように語り、控えている衆院選で勝つつもりかもしれない。

 もしかしたら、五輪で感染は広がらないかもしれない。でもそれは賭けだ。五輪で膨大な人数が国内に入る中で、完璧な感染対策など不可能だから(人類史上前例がない)、どうしてもここにはイチカバチカの、つまり賭けの要素が強くなる。賭けられているのは国民の命だ。あらゆる地域の人たちが一度に混ざるから、新たな変異株誕生の可能性もある。

 これほどのパンデミック下で、通常の五輪を行う人類史上初の愚行、そして国民の命を賭ける前代未聞の大ギャンブルが始まろうとしている。ちょうどギャンブルも出てくる小説を出したばかりだが、さすがにこんな愚行は書かなかった。

 本当に選手のためなら、そもそも、なぜ17日間の通常開催にこだわるのだろう? …