朝ドラ「おむすび」は“平熱”の平成をどう描くか?めくるめく少女マンガの世界「嘘解きレトリック」で萌えを給水 | ナタリードラマ倶楽部 Vol. 11
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ナタリードラマ倶楽部 Vol. 11 [バックナンバー]
朝ドラ「おむすび」は“平熱”の平成をどう描くか?めくるめく少女マンガの世界「嘘解きレトリック」で萌えを給水
「3000万」「宙わたる教室」「ベビエブ」「孤独のグルメ」「あのクズ」…明日菜子×綿貫大介が語る2024年秋ドラマ前半戦
2024年10月31日 12:05 10
放送・配信中のドラマについて取り上げる連載「ナタリードラマ倶楽部」。Vol. 11では本連載でおなじみのドラマウォッチャー・明日菜子と綿貫大介が、2024年秋クールのドラマについて語り合う。取材は10月下旬に行われ、前編にあたる今回は10月8日までにスタートした作品が対象だ。
連続テレビ小説「おむすび」のスタートが大きなトピックスとなった今期。名作ぞろいのNHKドラマに夢中な明日菜子と綿貫だが、“萌えの給水”は月9作品で実施中だという。さらに「TBS火曜22時ここにあり」と言わしめるほどの「あのクズ」の王道ラブコメ度についても解説してもらった。
取材・文 / 尾崎南・脇菜々香 題字イラスト / トモマツユキ
「おむすび」第2のヒロインは、お父さん?
──前編では、10月8日までに放送が開始した秋ドラマを対象に語っていただきます。まずは連続テレビ小説「おむすび」のスタートについてお聞きしたいです。
明日菜子 私たちが前回(ナタリードラマ倶楽部 Vol. 10)話した主題歌予想、外れましたね(笑)。私は西野カナさん、綿貫さんは浜崎あゆみさんを挙げていましたが。
綿貫大介 B'zは予想外でした! あゆは劇中での曲使用だったか!
明日菜子 曲名の「イルミネーション」は、神戸ルミナリエ(※)を指しているのかなと想像しました。いつも移動中に流して、橋本環奈さん気分を味わっています。
※阪神・淡路大震災の犠牲者の鎮魂と復興への希望を託すイルミネーションイベント
──取材時点では第4週「うちとお姉ちゃん」が始まったところですが、ここまでのストーリーはいかがでしょう?
明日菜子 私が朝ドラを観始めたのは「まんぷく」からなんですけど、本格的に観るようになる前までは“朝ドラ=ヒロインの日常をつらつら描くもの”というイメージを持っていました。例えば「ちゅらさん」のような。今のところ「おむすび」もそのような描かれ方なので、朝ドラの原点回帰をしている印象です。
綿貫 震災を軸に少女たちがどう成長していくのかを描くという点で、「おむすび」でやろうとしていることは「あまちゃん」に近いのかなと思いました。時代設定が平成である以上、ギャルを描きたいというのもわかる。令和になってギャルマインドが再評価されているし。
明日菜子 「おむすび」は、阪神・淡路大震災を経験したヒロインの結(橋本環奈)がギャルに、そして栄養士になる物語だと思うけど、今の時点ではまだ彼女が覚醒してない。この期間をつないでいるのが、結の父・聖人(北村有起哉)なんじゃないかな。もはや第2のヒロイン感ありませんか? 姉の歩(仲里依紗)が裏ヒロインかと思いつつ、結を心配する不器用なお父さんのインパクトがすごく強い。
綿貫 私は「あさが来た」のように、姉妹を際立たせる作りになっていくのではと思います。今後も、歩の生活がしっかりフィーチャーされるのかなと。平成の大きな出来事として、阪神・淡路大震災に続いて東日本大震災も描かれるかもしれませんね。結は平成元年生まれなので、東日本大震災のとき20代前半ですから。そのとき、姉妹はどこにいるのか……。
明日菜子 脚本を手がける根本ノンジさんは、「監察医 朝顔」「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」「正直不動産」などで知られる令和ドラマのヒットメーカー。原作があるドラマの脚本を執筆しているイメージが強いから、オリジナルの作風が未知で楽しみです。現時点で「おむすび」では同時にさまざまなエピソードが登場するけど混線しない。そこに話運びのうまさを感じます。
綿貫 そういえば、第1話の結が海に飛び込むシーンで「うちは朝ドラヒロインか!?」ってセリフがありましたよね。視聴者のツッコミを奪われた(笑)。海に飛び込む朝ドラのヒロイン像は「てっぱん」や「あまちゃん」から来てると思うんだけど、「おむすび」第1話は2002年設定でどちらも放送前。結はなぜ自分を“朝ドラヒロイン”と思ったのか気になりました。ちなみに、一番の“朝ドラヒロインあるある”は木に登りがちってことだよ!
明日菜子 そうなんですか!? どういう経緯で木に登ろうとするんだ……?
綿貫 おてんばヒロインはたいてい木に登るんですよ。そのセルフオマージュなのか、「カムカムエヴリバディ」のメインビジュアルはなぜか3人のヒロインが木に登っていました。
明日菜子 なるほど!(笑) 平成は記憶に新しいからこそ視聴者の評価のハードルが上がって、朝ドラで描くには難易度が高いですよね。だけど、自分の思い出を反芻しながら視聴するのは楽しいです。
綿貫 “失われた30年”と言われていますが、1990年代初頭にバブルが崩壊してからずっと不景気で、平成って希望を持ちづらくワクワク感があまりない時代だったと思います。基本的に“平熱”と言いますか。その中でヒロインが熱い志を持って生きていくのって簡単じゃない。だからこそ今後、物語をどう転がしていくのか楽しみです。
──お二人の「おむすび」への期待が伝わってきました。
綿貫 朝ドラって自分にとっては習慣なんですよ。そうじゃない人は観るかどうか選べばいいけど、生活の一部にしている人も多いから。朝ドラは観ない選択肢がないし、ヒロインを応援するのみ!という気持ちです。
明日菜子 すでにお茶の間でイメージが浸透している橋本環奈さんが、朝ドラという大枠で、どう羽ばたいていくのかも楽しみです。
綿貫 余談ですが、ハギャレンメンバーのリサポンを演じる田村芽実さん、「らんまん」に続く2回目の朝ドラ出演で注目されてますが、個人的にはアンジュルム時代の卒業シングルに「糸島Distance」という曲があるので、糸島フェスティバルのパラショーはその縁も感じました(笑)。
「3000万」“今欲しい”と思う絶妙な金額感
──今期のNHKでは朝ドラのほかにも、「3000万」「宙わたる教室」「未来の私にブッかまされる!?」がスタートしました。「3000万」はNHKの脚本開発特化チーム・WDRプロジェクトから生まれたドラマで、4名の脚本家によってシナリオが共同執筆されています。
綿貫 海外では複数の脚本家がライターズルームに集い、1つのドラマシリーズを共同執筆するのが一般的。日本のテレビドラマは数話ずつ脚本家が交代するパターンはあるけど、共同執筆という形はまだまれなので、面白い試みだと思います。才能を持ち合って切磋琢磨し、制作しているんだろうな。
明日菜子 新人育成という意味でも画期的なプロジェクトですよね。しかも、ストーリーがめっちゃ面白い!
綿貫 祐子(安達祐実)たち家族の生活レベルがリアルだと思います。貧困とまでは言わないけど楽ではない暮らしで、3000万円(※)という額が絶妙。老後に2000万円が必要と言われている中で、3000万円は“今欲しい”と思う金額感だと思います。
※コールセンターの派遣社員として働く祐子、元ミュージシャンの夫・義光(青木崇高)、息子の純一(味元耀大)は、ある“事故”をきっかけに不正な現金3000万円を手にする
明日菜子 3000万円を手にした祐子がまず最初にしたことが、スーパーで買ったロールケーキの丸かじりなんですけど、そのエピソードも絶妙。この3000万円は明らかに黒いお金で、人生を棒に振るのはもったいない額。それでも手を伸ばしたくなってしまうところが、現代のリアルだと思う。「もしかしたらバレないかもしれない」という1%の希望にすがる主人公たちの姿にヒリヒリします。
綿貫 普通の人がちょっとしたきっかけで嫌な世界に迷い込んじゃうという展開は「世にも奇妙な物語」の一編にありそうなテイストです。祐子たち家族にリアリティがあるから「こんなふうに一線越えちゃうこともあるのかも」と思わされます。フィクションだけど、ノンフィクションのような。
明日菜子 今作には「犯罪者は特別な存在ではない」というテーマも感じます。犯罪に片足をつっこんでからズブズブとハマってしまってる祐子夫妻はもちろん、象徴的だったのが、闇バイトをしているソラ(森田想)の本名が、美しい姫と書いてミキだと判明する第3話。美姫という名前に親御さんの愛情をすごく感じて、そんな子も闇バイトに手を出してしまうという描写に考えさせられました。
綿貫 祐子が名前の漢字を確認するんですよね。そのシーンで同じことを思いました。「3000万」はハッピーエンドを迎えるとは思えないから、バッドエンドに向かってどう転ぶのか気になる!
「宙わたる教室」学園ドラマで先生の仲間が増えていく展開、好き
──「宙わたる教室」はいかがでしょうか? こちらは小説が原作の作品です。
綿貫 なかなか面白い学園ドラマが少ない中、キャラクターの背景を深掘りしている時代性のある作品だと思います。定時制高校を舞台にした作品はたくさんあるけど、時代によって生徒たちを取り巻く環境は変わってきています。このドラマでも生徒たちのバックボーンに注目したいです。私は特に、2話のアンジェラ(ガウ)のエピソードが好きでした。彼女はフィリピンと日本のミックスなのですが、1話分を使って民族的マイノリティとニューカマーの子どもたちを取り巻く差別を取り上げたことに意味があると思う。
明日菜子 第1話で藤竹先生(窪田正孝)が「ここ(学校)はあきらめたものを取り戻す場所ですよ」と言ったのが印象的でした。“学び直し”というテーマにグッときます。NHKはさまざまなドラマで「人はいつからでも学べる」「学んだことは誰にも奪われない」というメッセージを伝えていて、「宙わたる教室」はその集大成という感じがします。学びはいつの時代も人を救うんだな……。
綿貫 生きていくうえで、まずは自分から学ばないといけないというメッセージもありますよね。「宙わたる教室」ではもう1つ、科学部が物語のキーになっています。
明日菜子 科学部の存在によって、「学ぶことで世界が広がる」というテーマが効いてきますよね。毎話、科学部のメンバーが増えていくのもいい。
綿貫 学園ドラマと言えば、どんどん先生の仲間が増えていく展開が好きです(笑)。あとはなんといっても藤竹先生のキャラクターがすごくいい。学園ドラマって結局、先生のドラマじゃないですか。生徒にとって先生の重要さは計り知れませんから。学園ドラマのフォーマットとしては、藤竹先生は熱血漢じゃないと成立しないところなのに、すごくローテンション。寄り添い方が超今っぽい。
明日菜子 生徒はそれぞれ言語化しづらいやるせなさを抱えていて、それを藤竹先生がロジカルに解きほぐしていくのがいいですよね。生徒の1人である柳田岳人役の小林虎之介さんも、すごく役に合っています! まさに早めに仲間にしておきたいタイプの不良! 学園ドラマで先生が最初に仲良くなるのは優等生じゃなくワルっぽい子なんですよ。
綿貫 ドラマの主要不良キャラは結局いいやつなんですよね。クラスメイトを助けたり。
──公式サイトのあらすじによると、やがて科学部が学会発表を目指すストーリー展開になるようです。
綿貫 えっあの子たち、さらにがんばるの? それはヤバい、泣くかも……。仲間を増やして学ぶだけで満足なのに、さらに大きな夢を持つなんて!
明日菜子 今はまだ序章だったと……!?
綿貫 藤竹先生が赴任してきた理由も明かされていませんしね。どうなるんだ……目が離せません。
「ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!」ちさととまひろの名前がない関係性
──ここからは民放ドラマのお話に移りたいと思います。テレビ東京ほかでは、9月に「ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!」が始まりました。
明日菜子 私は映画「ベイビーわるきゅーれ」シリーズを観ておらずドラマ版から入りましたが、面白かったです!ちさと(高石あかり)・まひろ(伊澤彩織)コンビの人気の理由がめっちゃわかる! 社会になかなかなじめない女子2人の連帯感、しかもそれが2人だけのものという特別感がよかったです。制作スタッフの愛情も感じるし、嫌な商業感もない。
※高石あかりの高は、はしごだかが正式表記
綿貫 私は映画も観ています。ちさととまひろの、友情と言っていいかもわからない、名前がない関係性がとても素敵だし、この2人の抜け感がたまりません。映画は最初、アクションのすごさで注目されていましたよね。私はアクションにあまり興味がないのでどうかな?と思っていたけど、このノリとテンポが面白くてハマりました。ドラマ版はアクションシーンがない回もありますし、短い尺でパッと観る楽しさがあると思う。あと草川拓弥、本田博太郎、柄本時生というドラマ版追加キャストの人選も最高。
明日菜子 ちさとの実家で親戚の集まりに参加したまひろが、「ちさとにはああいう普通の幸せもあったのかな」「くらっちゃった」としょんぼりするシーンがあるんですけど、ちさとが「でも私にとっての幸せはまひろとこうやって(一緒に)いることだよ」って答えるんですよね。そこでまひろは、「え~! 大好き(ハグ)」みたいなことはせず、しみじみと「ありがてえ」って言う。名前のない関係性をすごく感じるシーンでした。必要以上にベタベタする女の子同士のドラマも多い中、特別な感情を抱きながらも、2人の距離感がさわやかでいいなと思います。
「それぞれの孤独のグルメ」は、全国民総井之頭五郎計画
綿貫 テレビ東京系で言うと、「それぞれの孤独のグルメ」もありますね。「孤独のグルメ」はグルメ系ドラマの原点にして頂点という存在です。
明日菜子 いろんなグルメドラマで井之頭五郎っぽいキャラクターが現れますが、誰も敵わない! 「それぞれの孤独のグルメ」は今までのシリーズとは違う試みで、いわば“全国民総井之頭五郎計画”のような、テレ東の大きな野望を感じます(笑)。あなたも私も井之頭五郎、人類みな井之頭五郎です。
綿貫 「それぞれの孤独のグルメ」のよさは、井之頭五郎が毎話物語に絡んでいくところ。ちゃんと登場してくれるからファンはうれしいはず。私は、第3話の看護師・高垣晴美(板谷由夏)回で「それぞれの孤独のグルメ」の面白みが出たと思いました。第2話のタクシー運転手・毛利真一郎(マキタスポーツ)回は、同世代のおじさん2人がそれぞれごはんを食べる話だったので、「これはどう見たらいいんだろう?」と思ったけど(笑)。第3話では、高垣さん自身の物語が描かれましたよね。看護師として、現場を離れるかどうか悩みを抱えていたり。
明日菜子 第3話にはドラマがありましたね。中華料理店の大将(太田光)回の第1話を観たときは、お店の人と井之頭五郎の物語が続くのかと思っていました。お店の人と五郎って「この人よく食べるなあ」で終わる関係性だから、連ドラで話が持つのか!?と心配になったけど、第2話以降はお客さん目線の話になったので、ちょっと安心した(笑)。改めて「孤独のグルメ」って汎用性が高い作品ですね。