JP4270925B2 - 乳酸系ポリマーの組成物 - Google Patents
- ️Wed Jun 03 2009
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は生分解性樹脂組成物および該組成物の成型加工品に関するものである。詳しくは優れた生分解性とともに柔軟性、加工安定性、実用強度、耐熱性を有した包装材料、医療用品、その他生活用品、工業用品等の成形材料として用いられる樹脂組成物および該組成物の成型加工品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、家庭や工場から廃棄されるプラスチックの増大が大きな社会問題となっている。従来より高分子材料の多くは長期にわたって安定であることを目的に作られてきたので、これらは自然環境の中では容易には分解されず、人手による処理が必須である。
現状の廃棄物処理は焼却処分や埋設処分であるが、不要となったプラスチック廃棄物の量はこれを処理する側の能力をはるかに超え、いかに処分すべきかとの問題を引き起こしている。また一部使用者の心無い行為によりルールを無視して廃棄されたプラスチックは自然の景観を損ない、海洋生物の生活環境を汚染するなどの問題も引き起こしている。
【0003】
このような状況の中、加水分解・微生物分解等で崩壊する生分解性高分子が環境に負荷を与えない高分子材料として注目を集め、研究開発が多数行われている。中でも透明性、耐熱性、安全性が優れている上、近年、原料が大量かつ安価に製造されるようになってきたポリ乳酸が注目され、様々な応用がなされている。
しかしながら、ポリ乳酸をはじめとしたポリ乳酸系樹脂は剛直で脆いため、しなやかさが求められる材料としては使い勝手が悪く、そのような用途における利用が限定されている。そこでこれを可塑化して柔軟性を与え、適当な伸び、適当な弾性率を発現させてポリオレフィンのように使い勝手を良くする工夫が種々なされている。また、食品包装用のラップなどの用途では、適度な密着性が要求されるが、後述の比較例のようにポリ乳酸系樹脂の延伸フィルムには充分な密着性がないため、工夫が必要となる。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、分解性ポリマー組成物に対する改質剤として、アセチルトリブチルシトレート(アセチルクエン酸トリブチル)、ラクチド、グリコリド、乳酸エステル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、カプロラクトン、アセチルトリエチルシトレート(アセチルクエン酸トリエチル)等を使用する技術が開示されている。
【0005】
下記特許文献2には、乳酸系ポリマーに対する可塑剤として、アセチルクエン酸トリブチル、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート等を使用する技術が開示されている。また、下記非特許文献1には、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチルを使用する技術が開示されている。さらに、下記特許文献3にはエチルフタリルエチルグリコレート、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチルフタレート、エーテルエステル誘導体(旭電化工業(株)製、アデカサイザーRS1000(商品名))、トリアセチンを使用する技術が、下記特許文献4にはアセチルリシノール酸エステルを1〜50重量部含有させる技術が、下記特許文献5にはグリセリンジアセトモノカプリレートを使用する技術が、下記特許文献6にはジグリセロールテトラアセテート等のジグリセロール酢酸エステルを使用する技術が開示されている。
しかしながら、これらの改質剤や可塑剤は可塑化能力や安全性等、樹脂組成物における耐加水分解性や成型加工性等、成型加工品における柔軟性や密着性等、においてその性能は一長一短であった。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−501584号公報
【特許文献2】
特開平8−034913号公報
【特許文献3】
特開平11−323113号公報
【特許文献4】
特開平12−72961号公報
【特許文献5】
特開平14−60604号公報
【特許文献6】
特開平14―80703号公報
【非特許文献1】
L. V. Labrecque, R. A. Kumar, V. Dave, R. A.Gross, S. P. Mccarthy、Journal of Applied Polymer Science、1997年、Vol. 66, p.1507-1513
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、生分解性とともに、柔軟性、密着性、耐熱性、透明性および実用強度を有した成型加工品を提供することが可能な、優れた加工安定性を有する乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂組成物、及びその成型加工品を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、
[1] 結晶融点が110〜230℃の乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)と添加剤(B)とからなり、該添加剤(B)の含有割合が0.5〜30重量%である樹脂組成物(C)であって、かつ該添加剤(B)は下記B1のクエン酸飽和エステル化合物、若しくは下記B1のクエン酸飽和エステル化合物と下記B2のクエン酸飽和エステル化合物の混合体を主成分とし、これらクエン酸飽和エステル化合物の組成割合がB1のクエン酸飽和エステル化合物5重量%以上100重量%以下、B2のクエン酸飽和エステル化合物95重量%以下であることを特徴とする乳酸系ポリマーの組成物、
B1のクエン酸飽和エステル化合物:クエン酸飽和エステル化合物が、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が
飽和脂肪酸であり、
かつ上記クエン酸中のいずれか1つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が炭素数5以上12以下の脂肪族飽和一価アルコールであり、残り2つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上4以下の脂肪族飽和一価アルコールであり、かつこれら4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和一価アルコールの炭素数の合計が9以上20以下であるクエン酸飽和エステル化合物、
B2のクエン酸飽和エステル化合物:クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が炭素数1以上4以下の飽和脂肪酸であり、かつ該クエン酸中の3つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上4以下の脂肪族飽和一価アルコールであるクエン酸飽和エステル化合物
[2] 乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂が、乳酸系化合物由来の繰返し単位を主体とし、他に共重合成分として、グリコール酸系化合物、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシカプロン酸、ε−カプロラクトンの単量体群から選択される単量体由来の繰返し単位を少なくとも一種含むことを特徴とする[1]に記載の乳酸系ポリマーの組成物、
[3] 乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂が、乳酸系化合物由来の成分以外の共重合成分を1〜45モル%含んでいることを特徴とする[1]または[2]に記載の乳酸系ポリマーの組成物、
[4] 乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)が、混合樹脂として乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の他の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)、その他の熱可塑性樹脂(E)から選択される少なくとも一種の樹脂を1〜45重量%含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の乳酸系ポリマーの組成物、
[
][1]〜[
4]のいずれかに記載の乳酸系ポリマーの組成物が、シート、フィルムまたは容器状に加工されたものであることを特徴とする成型加工品、
[
] シートまたはフィルムが、延伸加工されていることを特徴とする[
5]に記載の成型加工品、
[
] シートまたはフィルムが、その2%引張弾性率で0.1〜200kg/mm2であることを特徴とする[
5]または[
6]に記載の成型加工品。
[
] シートまたはフィルムが、その垂直剥離密着力で0.01〜1000g/cm2であることを特徴とする[
5]〜[
7]のいずれかに記載の成型加工品、である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明における、結晶融点が110〜230℃の乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂は、乳酸、乳酸のオリゴマーの直接重合体、乳酸メチルなどの乳酸エステルの重縮合体、ラクタイドの開環重合体、および乳酸、乳酸のオリゴマー、乳酸エステル、ラクタイド等とその他の単量体との共重合体等であり、共重合成分で光学異性体の存するものはそのD体、L体、DL(ラセミ)体、メソ体等が含まれる。ここで共重合とは、ランダム状、ブロック状、両者の自由な混合構造をも含む。また、D体主体のポリマーとL体主体のポリマーの混合体のステレオコンプレックス体も含むものとする。
【0010】
共重合するその他の単量体としては、以下のものが挙げられる。
共重合するその他の単量体のうち、脂肪族ヒドロキシカルボン酸類としては、例えば、グリコール酸系化合物、2−ヒドロキシ−2−モノアルキル酢酸、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ−3−モノアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ−4−モノアルキル酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ−2−モノアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−2−モノアルキル酪酸、4−ヒドロキシ−3−モノアルキル酪酸、3−ヒドロキシ−3,3−ジアルキルプロピオン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシ−2−モノアルキル吉草酸、4−ヒドロキシ−2−モノアルキル吉草酸、5−ヒドロキシ−2−モノアルキル吉草酸、5−ヒドロキシ−5−モノアルキル吉草酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−3,4−ジアルキル酪酸、5−ヒドロキシ−3−モノアルキル吉草酸、4−ヒドロキシ−4,4−ジアルキル酪酸、5−ヒドロキシ−4−モノアルキル吉草酸、3−ヒドロキシ−2,2,3−トリアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酪酸、4−ヒドロキシ−3,3−ジアルキル酪酸、3−ヒドロキシ−2,3,3−トリアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−2,3−ジアルキル酪酸、及び3−ヒドロキシアルカノエートで代表される3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバリレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシオクタデカノエート等が挙げられる。但し、脂肪族ヒドロキシカルボン酸類に環状二量体、光学異性体(D体、L体、DL体、メソ体)が存在する場合には、それらも含める。
【0011】
共重合するその他の単量体としては、これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。また、これらのエステル類を原料として使用し、共重合しても良い。
また、ラクトン類も共重合するその他の単量体として用いることができる。ラクトン類としては、例えば、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。共重合するその他の単量体として、これらのラクトン類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0012】
同様に共重合するその他の単量体として、以下のアルコール成分、酸成分も用いることができる。アルコール成分としての脂肪族多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、その他のポリエチレングリコール類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、その他のポリプロピレングリコール類、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、カーボネート結合を有するジオール類などが挙げられ、エチレンオキシドやプロピレンオキシド等を含む物も使用することが可能である。共重合するその他の単量体としては、これらの脂肪族多価アルコール類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0013】
また、酸成分としての脂肪族多価カルボン酸類としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びこれらのエステル誘導体、酸無水物等を使用することが可能である。共重合するその他の単量体としては、これらの脂肪族多価カルボン酸類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
本発明において、共重合する場合の好ましい組み合わせ例として、乳酸系化合物を主原料にして、グリコール酸系化合物と共重合したもの、又は2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシカプロン酸、ε−カプロラクトン等から選ばれる少なくとも1成分と共重合したもの(但し、いずれも前述のランダム状、ブロック状、その他をも含む)等が挙げられる。また、これらのエステルを原料として重縮合しても良い。
【0015】
なお、本発明において乳酸系化合物とは、乳酸(D体、L体、DL体)、ラクタイド、乳酸のオリゴマー、乳酸エステル等の乳酸誘導体などをも含むものと定義する。グリコール酸系化合物とは、グリコール酸、グリコリド、グリコール酸のオリゴマー、グリコール酸エステル等のグリコール酸誘導体などをも含むものと定義する。
共重合するその他の単量体由来の共重合成分の好ましい含有比率は、対象成分同士によって多少異なるが、柔軟性、密着性、耐熱性、生分解性等の観点から、共重合成分の合計で表して好ましくは1〜45モル%、より好ましくは3〜40モル%、さらに好ましくは5〜35モル%である。
【0016】
本発明の乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)は、他に乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)、その他の熱可塑性樹脂(E)のうち少なくとも一種の樹脂を混合して用いても構わない。本発明において、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)とは、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を50重量%以上含有する樹脂を言う。
これら樹脂の混合する場合の樹脂(A)中の含有比率は、対象成分同士によって多少異なるが、一般には混合する上記樹脂(D)および樹脂(E)の合計で表して1〜45重量%、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは3〜35重量%程度である。
【0017】
該乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)としては、具体的にはグリコール酸系化合物、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシカプロン酸、ε−カプロラクトン等から選択される少なくとも一種の単量体由来の繰返し単位(又はこれらのエステル由来の繰返し単位)を50モル%以上含む重合体、これらの共重合体、これらに乳酸を50モル%未満含む共重合体、及び乳酸を50モル%以上含むものでも本発明以外の乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂、例えば本発明以外の融点を有するものや融点を持たない非晶質のもの(乳酸の光学異性体同士で共重合したものも含む)、等が挙げられる(光学異性体は通常、結晶構造に影響を与えるので別の単量体として換算する事とする)。
【0018】
また他には、バイオ技術等により菌により産出させたポリ3−ヒドロキシアルカノエートとして代表される、例えばポリ3−ヒドロシキブチラートもしくは、3−ヒドロシキブチラートに、3−ヒドロキシバリレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシオクタデカノエート等のうち少なくとも一種を共重合させたもの等がある。
【0019】
また他には、ポリエチレンサクシネート(日本触媒(株)製 ルナーレSE(商品名)等)、ポリブチレンサクシネート(昭和高分子(株)製 ビオノーレ#1000シリーズ(商品名)等)、ポリカプロラクトン(ダイセル化学工業(株)製 セルグリーンPH(商品名)、Dow社製TONE(商品名)等)、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)(昭和高分子(株)製 ビオノーレ#3000シリーズ(商品名)等)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)(三菱ガス化学(株)製 ユーペック(商品名)等)などが挙げられる。
【0020】
次に、その他の熱可塑性樹脂(E)としては、ポリオレフィン系樹脂、芳香族系単量体を含む通常のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合樹脂、α−オレフィン(エチレン、他)−スチレン共重合体樹脂(同水添樹脂含む。)、α−オレフィン−一酸化炭素共重合樹脂(同水添樹脂含む。)、エチレン−脂環族炭化水素共重合樹脂(同水添樹脂含む。)、スチレン−ブタジエン又はイソプレン共重合樹脂(同水添樹脂含む。)、石油樹脂(同水添樹脂含む。)、天然樹脂(同水添樹脂含む。)、原料を天然品として重合した樹脂(同水添樹脂含む。)等が挙げられる。
【0021】
また他には、ポリビニルアルコール(クラレ(株)製 ポバール(商品名)等)、澱粉を複合した生分解性樹脂(Novamont社製 Mater-Bi(商品名)、アイセロ化学社製 ドロンCC(商品名)、日本コーンスターチ社製Evercorn(商品名)等)、酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製 セルグリーンPCA(商品名)等)、1,4ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸の共重合体(BASF社製 Ecoflex(商品名)等)、エチレングリコールと琥珀酸とテレフタル酸の共重合体(Du Pont社製 Biomax(商品名)等)、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)(Eastman Chemicals社製 EastarBio(商品名)等)などが挙げられる。
【0022】
これら該樹脂(D)および該樹脂(E)は、柔軟性や密着性の観点から、該樹脂(A)の主体成分である乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂よりガラス転移温度(以下、Tgと略称する。後述の示差走査熱量測定(以下DSC法と略)に準じて測定。)が低いものが好ましく、より好ましくはTgが−70〜30℃のもの、さらに好ましくはTgが−60〜20℃のものである。
本発明の乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂の重合度は、重量平均分子量(Mw)(但し測定はASTM−D3536に準拠してゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより行い、標準ポリメチルメタクリレート換算にて分子量を算出)で、好ましくは20,000〜1,000,000程度の範囲であり、より好ましくは50,000〜800,000、さらに好ましくは70,000〜700,000である。
【0023】
これらの下限は強度、加工時の適正な溶融粘度(加工安定性)、耐熱性等より制限され、上限は添加剤との馴染みの度合い及び加工性により制限される。本発明における樹脂(A)は、結晶融点(後述のDSC法に準じて測定。)が110〜230℃の乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体としている。
該樹脂(A)の主体となる乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂の結晶融点が110℃未満であると、耐熱性が必要な用途の場合、耐熱性が不足し、また230℃を超えると分解温度が近くなり、分子量低下等による押出成形性の不安定化や着色が起こり易くなるため好ましくない。同じ理由でこれらの範囲は、より好ましくは130〜220℃であり、更に好ましくは140〜210℃である。
【0024】
上記乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂の分子構造は、各種の構造(例えば、ブロック構造やランダム構造、分岐を有する構造、架橋を有する構造)を含むものとする。
更に上記乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂の結晶化度(後述のDSC法に準じて測定。)の範囲は、一般に1%以上であり、好ましくは3〜70%程度であり、より好ましくは4〜70%である。また、特に耐熱性を要求する用途では、好ましくは5〜70%、より好ましくは10〜70%である。
【0025】
結晶化度の下限は耐熱性、寸法安定性等より制限され、上限は添加剤との馴染みにより制限される。但し、組成物および樹脂自体については、加工条件および添加剤等の影響により結晶化度が低くなったとしても、そのまま使用できる場合は当然のこと、使用時に適度に結晶化し、実用上有効に耐熱性を発現する場合があるので、結晶化度はここに定めた範囲を超えていてもかまわない。
本発明で使用する添加剤(B)は、樹脂(A)を可塑化し柔軟性や密着性を付与すると共に、加工性を向上させるために必要なものである。また、廃棄後のコンポスト処理を容易にする効果も有する。
【0026】
該添加剤(B)の主成分は、特定のクエン酸の飽和エステル化合物であることが必要である。この特定のクエン酸の飽和エステル化合物とは、以下に説明するB1のクエン酸飽和エステル化合物単独、もしくはB1のクエン酸飽和エステル化合物とB2のクエン酸飽和エステル化合物の混合体であり、これらの組成割合は、B1のクエン酸飽和エステル化合物が5重量%以上100重量%以下、B2のクエン酸飽和エステル化合物が95重量%以下である。
【0027】
本発明において用いられるB1のクエン酸飽和エステル化合物とは、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が飽和脂肪酸であり、該クエン酸中の3つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が脂肪族飽和一価アルコールであり、かつ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸及び脂肪族飽和一価アルコールの炭素数の合計が8以上34以下、好ましくは8以上26以下であり、これら4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸及び脂肪族飽和一価アルコールのうちのいずれか1つもしくは2つの炭素数がそれぞれ5以上18以下、好ましくは5以上12以下であり、残りの飽和脂肪酸及び脂肪族飽和一価アルコールの炭素数がそれぞれ1以上4以下であるクエン酸飽和エステル化合物である。より好ましくは、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が炭素数2の飽和脂肪酸であり、かつ上記クエン酸中のいずれか1つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が炭素数5以上12以下の脂肪族飽和一価アルコールであり、残り2つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上4以下の脂肪族飽和一価アルコールであり、かつこれら4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和一価アルコールの炭素数の合計が9以上20以下であるクエン酸飽和エステル化合物である。
【0028】
該B1のクエン酸飽和エステル化合物としては、例えば、アセチルクエン酸ジメチルモノヘキシル、アセチルクエン酸モノメチルモノエチルモノヘキシル、アセチルクエン酸ジメチルモノオクチル、アセチルクエン酸ジメチルモノラウリル、アセチルクエン酸ジメチルモノヘキサデシル、アセチルクエン酸ジメチルモノオクタデシル、アセチルクエン酸ジエチルモノオクチル、アセチルクエン酸ジエチルモノラウリル、アセチルクエン酸モノエチルジラウリル、ブチリルクエン酸ジエチルモノヘキシル、バレリルクエン酸ジエチルモノプロピル、バレリルクエン酸トリメチルなどが挙げられる。但し、これらのアルキル基には、例えば、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどのような異性体も含むものとする。
【0029】
本発明で用いられるB2のクエン酸飽和エステル化合物とは、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が炭素数1以上4以下、好ましくは2以上4以下、の飽和脂肪酸であり、かつ該クエン酸中の3つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上4以下、好ましくは2以上4以下、の脂肪族飽和一価アルコールであるクエン酸飽和エステル化合物である。
【0030】
該B2のクエン酸飽和エステル化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリメチル、アセチルクエン酸ジメチルモノブチル、アセチルクエン酸ジエチルモノブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリプロピル、アセチルクエン酸トリブチル、プロピオニルクエン酸ジエチルモノプロピルなどが挙げられる。但し、これらのアルキル基には、例えば、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどのような異性体も含むものとする。
【0031】
上記のB1のクエン酸飽和エステル化合物、及びB2のクエン酸飽和エステル化合物は、それぞれ1種使用することも、2種以上混合して使用することもできる。
上記B1のクエン酸飽和エステル化合物、及びB2のクエン酸飽和エステル化合物の好ましい炭素数の上限は樹脂との相溶性や可塑化能力の悪化等により制限され、下限は樹脂組成物からの揮発性等により制限される。
【0032】
本発明は、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)に対する添加剤(B)として、B1のクエン酸飽和エステル化合物5重量%以上100重量%以下と、B2のクエン酸飽和エステル化合物95重量%以下の混合体を用いると、後述の実施例に示すように、樹脂との相溶性が良く、可塑化を充分進行できるうえに、良好な密着性を発揮でき、組成物の分子量低下も起こり難いこと、さらにはB1のクエン酸飽和エステル化合物とB2のクエン酸飽和エステル化合物との混合割合を変化させることにより、樹脂組成物(C)や成型加工品の柔軟性、密着性、加工性等を自由に変化させ、制御することができることを、本発明者が見出したことに基くものである。
【0033】
本発明におけるB1のクエン酸飽和エステル化合物とB2のクエン酸飽和エステル化合物との組成割合は、B1のクエン酸飽和エステル化合物が5重量%以上100重量%以下であることが必要であり、好ましくは10重量%以上100重量%以下、より好ましくは20重量%以上100重量%以下である。B1のクエン酸飽和エステル化合物の組成割合が5重量%以上であれば密着性不足になることがない。一方、B2のクエン酸飽和エステル化合物のみを使用した場合は、添加剤(B)がシート、フィルム、延伸フィルム等の表面にブリードアウトし難く、特に延伸フィルムの場合に、密着性の観点から好ましくない。
【0034】
なお、該クエン酸飽和エステル化合物の名称は、クエン酸のアルコール基とエステル結合を構成する酸成分を前に、クエン酸のカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分を後ろの順に記述する。
本発明において樹脂組成物(C)中の該添加剤(B)の含有割合は、0.5〜30重量%の範囲であり、好ましい範囲は3〜27重量%であり、より好ましくは5〜25重量%である。これらの下限は該樹脂組成物(C)の柔軟性不足、成形加工性により制限され、上限は該樹脂組成物(C)の成形加工性や該樹脂組成物(C)から得られる成形加工品の寸法安定性、耐熱性、強度不足により制限される。
【0035】
また、該添加剤(B)は、主成分である前記のクエン酸の飽和エステル化合物の他に、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、その他の単価アルコールもしくは多価アルコールとの脂肪族脂肪酸エステル、脂肪族ヒドロキシカルボン酸エステル、脂肪族多価カルボン酸エステル、エポキシ系可塑剤等のうち1種または2種以上を混合して使用しても構わない。また場合によっては、混合することにより、組成物や成型加工品の柔軟性、密着性、加工性等を変化させることができ、好ましい場合がある。
【0036】
以下、これらの添加剤(B)に混合して使用しても構わない成分を添加剤(F)という。
添加剤(F)の具体例としては、グリセリンエステル又はジグリセリンエステル等のポリグリセリンエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類が挙げられ、そのエステルの酸成分としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸等のノルマルモノ不飽和脂肪酸、リノール酸、リノレン酸等のジおよびトリ二重結合を有する脂肪酸から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0037】
また、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールおよびこれらの重縮合物と上記脂肪酸との自由なエステルも添加剤(F)の具体例として挙げられる。
更に、グリコール酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸等の自由なエステル(但し、クエン酸エステルの場合は、添加剤(B)の主成分である特定のクエン酸の飽和エステル化合物は除く)、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の多価カルボン酸の自由なエステルも添加剤(F)の具体例として挙げられる。エポキシ化変性大豆油、エポキシ化変性亜麻仁油等も添加剤(F)の具体例として挙げられる。
これらの添加剤(F)の具体例の内、好ましい添加剤(F)としてはポリグリセリンエステル類、リンゴ酸エステル類、クエン酸エステル類、エポキシ化変性亜麻仁油等が挙げられる。
【0038】
好ましいポリグリセリンエステル類としては、エステルを構成する脂肪酸の全てが炭素数が2もしくは3の短鎖脂肪酸であるグリセリンエステルまたはポリグリセリンエステル、または分子中の全エステル基のうちの1つのエステルを構成する脂肪酸が炭素数が7〜12の中鎖脂肪酸であり、残りのエステルを構成する脂肪酸が炭素数が2もしくは3の短鎖脂肪酸であるグリセリンエステルまたはポリグリセリンエステルである。または、両者の混合物である。具体的には、トリアセチン、グリセリンジアセトモノプロピオネート、グリセリンジプロピオネートモノアセテート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレート、トリプロピオニン、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリントリアセトモノカプリレート、ジグリセリントリアセトモノカプレート、ジグリセリントリアセトモノラウレート、トリグリセリンヘプタアセテート、テトラグリセリンヘキサアセテート等が挙げられる。
【0039】
また、好ましいリンゴ酸エステル類としては、リンゴ酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が炭素数2以上22以下の飽和脂肪酸であり、且つ2つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上18以下の脂肪族飽和一価アルコールであり、且つ上記の3つのエステル基を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和一価アルコールの炭素数の合計が4以上26以下であるリンゴ酸エステルが挙げられる。具体的には、アセチルリンゴ酸ジメチル、アセチルリンゴ酸ジエチル、アセチルリンゴ酸ジプロピル、アセチルリンゴ酸ジブチル、アセチルリンゴ酸ジヘキシル、アセチルリンゴ酸ジオクチル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノブチル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノヘキシル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノオクチル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノラウリル、アセチルリンゴ酸ジラウリル、ブチリルリンゴ酸モノブチルモノラウリル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノオクタデシル、プロピオニルリンゴ酸ジエチル、ブチリルリンゴ酸ジエチル、バレリルリンゴ酸ジエチル、カプロイルリンゴ酸ジエチル、カプリリルリンゴ酸ジエチル、カプリルリンゴ酸ジエチル、ラウロイルリンゴ酸ジエチル等が挙げられる。また他には、アセチルリンゴ酸モノラウリルモノステアリル、アセチルリンゴ酸ジステアリル等が挙げられる。又はこれらの混合エステル等が挙げられる。
【0040】
また、好ましいクエン酸エステル類としては、アセチルクエン酸トリアミル、アセチルクエン酸トリヘキシル、アセチルクエン酸トリヘプチル、アセチルクエン酸トリオクチル、アセチルクエン酸トリラウリル、アセチルクエン酸モノエチルジステアリル、プロピオニルクエン酸モノオクチルジラウリル、又はこれらの混合エステル等が挙げられる。
添加剤(F)を混合する場合、添加剤(F)の混合割合は、一般に添加剤(B)中の3〜90重量%である。
【0041】
本発明の樹脂組成物(C)は、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、真空成形、発泡成形、圧縮成形等の製法により、射出成形品、発泡体、連通気孔体、押出しシート、インフレフィルム、キャストフィルム、延伸フィルム等に加工して、例えば包装材、バイオ、医学用の用途(徐放材、培養材等)、その他生活用品・工業用品等に用いられる。
ここで延伸加工とは、シートやフィルム等の成型加工品等を、好ましくはそのガラス転移温度(Tg)以上、融点以下の温度で、少なくとも一軸方向に2倍以上引き伸ばす操作のことを言う。
【0042】
本発明の樹脂組成物(C)の2%引張弾性率(2%Modulus、以下2%Moと略す。)は、樹脂組成物(C)から作成したシートやフィルム等をサンプルとして用い、ASTM−D882に準拠して室温23℃、湿度50%の条件下で測定される2%伸張時の応力を100%に換算し、更に厚み換算した値の平均値(サンプル数=5)である。単位は(kg/mm2 )である。この2%Moの好ましい範囲は、一般に0.1〜200kg/mm2であり、より好ましい範囲は0.2〜170kg/mm2、更に好ましくは0.4〜120kg/mm2である。
【0043】
本発明の樹脂組成物(C)の流れ指数(Melt Flow Rates、以下MFRと略す。)はASTM−D1238に準拠して2160gの荷重下において190℃で測定される。但し、樹脂組成物(C)の融点が190℃を超える場合は、同条件において融点以上の温度を適宜設定しての値とする。得られた数値は10分間に押出された試料の質量(サンプル数=3の平均)であり、単位は(g/10分)である。MFRの好ましい範囲は0.01〜50g/10分、より好ましくは0.05〜40g/10分である。
本発明の樹脂組成物(C)の垂直剥離密着力は、食器などの容器や食品にラップフィルムを被せたときのフィルム同士の密着性等を評価する指標であり、以下の通り測定した。
【0044】
底面積が19.64cm2で質量が400gの円柱を2本用意し、これらの底面に、底面と面積が同一で厚さ2mmのゴムシート(アズワン株式会社製、バイトン・ゴム板(商品名))を予め貼り付けた。このゴムシートを貼り付けた2つの円柱の底面に、シートや延伸加工されたフィルムなどのサンプルを皺が入らないようにして固定した。そして、これらのサンプル面の相互がぴったり重なり合うように片方の円柱の上にもう一方の円柱を合わせた後、すぐに800gのおもりを載せて荷重し、1分間圧着した。その後おもりを取り外し、すぐに、重なり合わせた円柱に固定されたままのサンプル相互を、引張試験機にて5mm/分の速度で面に垂直な方向に引き離す。このとき要する単位面積当りの力の最大値を垂直剥離密着力(単位は、g/cm2)とした。測定は室温23℃、湿度50%の条件下で行った。試験回数は、10回行い、平均値を採用した。垂直剥離密着力の好ましい範囲は、0.01〜1000g/cm2、より好ましくは0.1〜500g/cm2、さらに好ましくは10〜300g/cm2である。これらの下限は密着性不足等により制限され、上限はフィルムやシートの剥がし難さやブロッキングの起こり易さ等により制限される。
【0045】
本発明の原料樹脂の結晶融点は、最適条件で充分アニールさせ結晶を平衡化せしめ、JIS K7121に準じたDSC法により10℃/分の昇温速度で測定した主ピーク温度で表す。
本発明の原料樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準じたDSC法により10℃/分の昇温速度で測定して求められる。
また本発明の原料樹脂の結晶化度は、簡易的に100%結晶の融解エネルギーにポリ乳酸の結晶融解エネルギー92.9J/g(出典:Polymer Handbook THIRD EDITION WILEY INTERSCIENCE)を用い、JIS K7122に準じたDSC法にて求めた原料樹脂の融解エネルギーとの相関を求めて決定する。
【0046】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて更に詳しく説明する。
ここで使用する乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)およびその他の熱可塑性樹脂(E)の詳細は以下の通りのものである。
A−1は、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂で、L−ラクタイド98モル%にD−ラクタイドを2モル%共重合した樹脂(結晶融点172℃、結晶化度37%)である。
A−2は、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂で、L−乳酸92モル%に2−ヒドロキシイソ酪酸8モル%共重合した樹脂(結晶融点168℃、結晶化度28%)である。
A−3は、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂で、L−乳酸93モル%にグリコール酸を7モル%共重合した樹脂(結晶融点174℃、結晶化度30%)である。
A−4は、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂で、ポリ(L−ラクチド)とポリ(D−ラクチド)を1:1の割合でブレンドしステレオコンプレックスを形成したもの(結晶融点225℃、結晶化度25%)である。
D−1は、ポリエチレンサクシネート(日本触媒社製 ルナーレSE(商品名)、結晶融点100℃、Tg:−11℃)である。
D−2は、ポリカプロラクトン(ダイセル化学工業社製 セルグリーンPH(商品名)、結晶融点60℃、Tg:−60℃)である。
E−1は、主成分が、ブタンジオール成分、テレフタル酸成分、アジピン酸成分からなる生分解性コポリエステル(BASF社製 Ecoflex(商品名)、結晶融点110℃、Tg:−30℃)である。
【0047】
ここに使用する添加剤は以下の通りである。
B1−1は、アセチルクエン酸ジエチルモノラウリルである。
B1−2は、アセチルクエン酸ジエチルモノオクチルである。
B1−3は、ブチリルクエン酸ジメチルモノオクタデシルである。
B1−4は、アセチルクエン酸モノエチルジラウリルである。
B2−1は、アセチルクエン酸トリエチルである。
B2−2は、アセチルクエン酸トリプロピルである。
B2−3は、プロピオニルクエン酸ジエチルモノプロピルである。
F−1は、アセチルクエン酸トリラウリルである。
F−2は、グリセリンモノアセテートである。
F−3は、グリセリンジアセトモノカプレートである。
F−4は、グリセリンジアセトモノラウレートである。
【0048】
【実施例1〜
】
樹脂としてA−1〜4、D−1〜2、E−1と、添加剤としてB1−1〜4、B2−1〜3、F−3〜4を、表1〜3に示す割合(なお、表1〜3の添加剤量は樹脂組成物(C)中の割合である。単位は、重量%である。
表3の樹脂の欄の混合割合は樹脂(A)中の割合で、単位は重量%である。表2〜3の添加剤量の欄の混合割合は添加剤(B)中の割合である。)で、ニーダーを用いて窒素フロー下において190℃で15分間混練し、その樹脂組成物を210℃で厚み200μmにプレスし、その直後に水温15℃の水冷式冷却プレスで急冷プレスして、急冷シートを作成した。
該シートの物性の測定結果を表1〜3に示す(物性の測定値の単位は以下の通りである。2%Moはkg/mm2、MFRはg/10分、垂直剥離密着力はg/cm2である。)。
【0049】
実施例1〜
では、混練の際に樹脂と添加剤はすみやかに馴染み、相溶性が良好であることが確認された。また、該組成物を混練後に冷却した場合でも、添加剤が多量に掃き出されることはなく安定であった。
実施例1〜
では、添加剤としてB1−1〜
2のような本発明のB1のクエン酸飽和エステル化合物を用いると、2%Moが低く可塑化が十分に進行している上に、垂直剥離密着力は適度な大きさとなった。また更に、MFRがあまり上昇せず該組成物が分子量低下を起こし難くなっていることが見出された。
【0050】
また実施例
〜
6では、本発明のB1のクエン酸飽和エステル化合物及びB2のクエン酸飽和エステル化合物を2種類以上混合して用いると、上記同様、該樹脂(A)を可塑化し、該組成物(C)の分子量低下を起こし難いばかりか、(B1)と(B2)の混合割合に応じて、2%Mo、MFR、垂直剥離密着力を変化させることができ、組成物や成型品の柔軟性、密着性、成型加工性を自由にコントロールできることが見出された。
該B1のクエン酸飽和エステル化合物のように炭素数の長い添加剤は、樹脂の可塑化とともに表面へのブリードアウト効果による密着性制御に寄与し、該B2のクエン酸飽和エステル化合物のように炭素数の短い添加剤は炭素数の長い添加剤よりも可塑化を進みやす
くする。
【0051】
実施例
〜
9では、添加剤(F)を混合しても、添加剤(B)の主成分であるクエン酸の飽和エステル化合物のみの場合と同様に、該樹脂(A)を可塑化し、かつ該組成物(C)の分子量低下を起こし難いことが確認された。
また、実施例
〜
6と同様、添加剤の混合割合に応じて、2%Mo、MFR、垂直剥離密着力を変化させることができた。
実施例
のように、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)として、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)やその他の熱可塑性樹脂(E)を混合して用いても、2%Moが低く可塑化が十分に進行している上に、MFRがあまり上昇せず該組成物が分子量低下を起こし難くなっていることが見出された。
【0052】
また、これら実施例
の樹脂組成物(C)の柔軟性および密着性は、該樹脂(D)や該樹脂(E)を混合しないものより、向上した。
このように、該樹脂(A)の主体成分である乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂よりもTgが低いD−1〜2、E−1のような樹脂を混合させることにより、樹脂組成物(C)の柔軟性や密着性を制御できる。
これは、ラップ等の用途で、柔軟性や密着性を重視する場合は、特に好ましいと言える。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【実施例
〜
15】
実施例1、
、
9、
10の樹脂組成物の200μm急冷シートをそれぞれ、東洋精機社製 二軸延伸装置を用い、温度45〜60℃、延伸速度10〜50%/秒で縦方向及び横方向に同時に二軸延伸し、延伸フィルムを作成した。
その後、寸法安定性を付与する為に、ヤマト科学株式会社製熱風循環恒温槽DN400を用い、90℃、3分間の熱処理を行った。
その結果を表4に示す(省略した数値の単位は表1〜3と同じである。)。
これらのフィルムは適度な腰と密着性をもち、陶器製茶碗やプラスチック製コップ等に張り付いて内容物をうまく包装することができた。
また、透明性の評価として、村上色彩技術研究所社製ヘーズ計HR−100を使用し、JISK7105に準拠してHaze(単位は、%)を測定したところ、該フィルムの外観は透明で優れていた。
また、陶器製茶碗に一度炊き上がった後に冷えてしまったご飯を入れ、該フィルムをかぶせて電子レンジで1分間加熱したところ、ご飯を適度に温かくすることができた。
このとき該フィルムの外観、匂い、張り等は特に変化がなく、電子レンジ調理に使用できる耐熱性を有することを確認した。
【0057】
【表4】
【0058】
【比較例1〜3】
樹脂としてA−1〜2と、添加剤としてF−1〜2を表5に示す割合(なお、表5の添加剤量は樹脂組成物中の割合であり、単位は重量%である。)で、ニーダーを用いて窒素フロー下において190℃で15分間混練し、その樹脂組成物を210℃で厚み200μmにプレスし、その直後に水温15℃の水冷式冷却プレスで急冷プレスして、急冷シートを作成した。該シートの物性の測定結果を表5に示す(数値の単位は表1〜3の場合と同じである。)。
【0059】
F−1のように長いアルキル基を多く有し、分子中の炭素数の合計が大きい添加剤は、樹脂との相溶性が悪く、実施例1と同量の添加剤を加えようとすると、比較例1に示すように樹脂と添加剤が分離してしまい混合できなかった。また、比較例2のようにF−1を混合可能な範囲内で添加した場合は、2%Moが大きくなり柔軟性を充分に付与することが出来なかった。
また、F−2のように水酸基が分子内に存在する添加剤の場合は、可塑化は進むものの、加水分解やエステル交換反応等によるポリマーの分子崩壊が起こるために、MFRが増大して加工安定性が損なわれた。
【0060】
【表5】
【0061】
【比較例4】
樹脂としてA−1を用い添加剤を使用せずに、実施例1と同様の方法で厚み200μm急冷シートを作成した。該急冷シートを、上記の延伸装置を用い、温度80℃、延伸速度50%/秒、延伸倍率3.5倍/3.5倍で縦方向及び横方向に同時に二軸延伸し、延伸フィルムを作成した。その後、実施例14〜17と同様の方法で熱処理を施した。該延伸フィルムの2%Moは273kg/mm2 、垂直剥離密着力は0.01g/cm2未満であり、柔軟性は充分とは言えず、密着性は認められなかった。
【0062】
【比較例5】
樹脂としてA−1を用い、添加剤としてB2−1を20重量%添加して、実施例1と同様の方法で厚み200μm急冷シートを作成した。該急冷シートを、上記の延伸装置を用い、温度50℃、延伸速度10%/秒、延伸倍率3.0倍/3.0倍で縦方向及び横方向に同時に二軸延伸し、延伸フィルムを作成した。その後、実施例14〜17と同様の方法で熱処理を施した。該延伸フィルムの2%Moは52kg/mm2 、垂直剥離密着力は6g/cm2であり、密着性は満足のいくものではなかった。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、生分解性とともに、柔軟性、密着性、加工安定性、耐熱性、透明性および実用強度を有した、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂組成物及びその成型加工品を提供することができる。