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東芝科学館 - この人に会いたい 第5回 -1

  科学館長のこの人に会いたい
インタビューシリーズ 第5回 東芝テック(株)相談役 森 健一さん
プロジェクトX主人公が語る 明るい未来を拓く術
東芝中央研究所時代の主たる研究は、文字認識、日本語ワードプロセッサ、その他画像認識、自然言語処理の研究等 東芝テック(株)相談役 2003年度 本田賞授賞

今もなお、夢を追い続けるあくなき研究者魂
浅田: 本田賞受賞、おめでとうございます。まずはそのご感想をお聞かせください。
森: 森さんは本田賞24回の受賞のうち日本人としては4人目の受賞者となるはじめ、財団の方からお話を伺った時、賞の主旨であるエコテクノロジーに合致していると言われ、「なぜ自分がエコ(環境)関連の賞なのだろう?」と疑問に思いました。しかしよく聞きましたところ“人間社会をよりよくするための真の技術”をエコテクノロジーと称しているとのこと。またホンダの社是(経営理念)でもある『買う喜び、売る喜び、創る喜び』にも私達の開発したワープロは通じているところがあると言われました。大変光栄に思います。
浅田: 受賞理由には、このワープロ開発の成功により中国語など漢字文化圏やアジア諸国の言語に応用される自国語ワープロのモデルとなったということがありますね。
森: 当時、韓国や中国から自国のワープロを作ってほしいとの要望がありました。しかし私は、試作のための方法(作る原理)は教えられるけれども、ソフト(言葉)に関してはそちらでされたほうがよいと助言をしました。なせなら、文化が異なれば言葉も異なるもの。文法などをよくわかっているネイティヴの人たちがやらなくてはいいワープロはできないと自分たちの経験から思ったからです。このような背景の中で、中国のワープロは東芝から派遣した人たちと中国人が一緒に研究開発を行い完成されました。
浅田: 先ほどの文芸春秋の取材では、記念写真、インタビューともに3人でされていました。
森: 日本語ワードプロセッサ1号機の開発を成功させ、その偉業はすでに多くのメディアにもとりあげられている。中でもNHK"プロジェクトX"の放送は記憶に新しい。このワープロは私個人ではなく、あくまでもチームで開発したものです。これまでも、色々な表彰や取材はグループでお受けしています。今回も同様にしたいと希望しましたが「受賞者はグループを代表すると割り切ってください」と言われたので、その代わりにインタビューなどはグループで、という条件をださせていただきました。もちろん、副賞である賞金も私個人がもらうのではありません。そのお金を使って新しいワープロを開発しようと考えています。
浅田: それは素晴らしい計画です。しかし東芝はワープロ事業から撤退してしまいましたが。
森: その理由は明らかです。我々がポータブル機Rupoを作った当時は家庭にも普及させたいということから10万円を切るワープロを目指し、1号機は99800円でした。ところがその後、様々な機能を付け加え値段を上げることを繰り返していたら20万円を超えてしまったのです。そのような状況の中でパソコンの値段が下がりだし、ワープロと同額くらいに。同じ値段のものを買うなら専用機か汎用機かといったら、みな汎用機がいいということでパソコンのほうに流れたわけです。
ですから、今度は機能をシンプルにして、書くための道具に徹した決定版を作ろうとしています。例えば、文章を打つ時には必要のないプリンタ部分を分離型にしようと思っています。文章をプリントするときはパソコン用のプリンタを使えばよいのですから、これでずいぶんコンパクトになるはずです。そのかわり、電子辞書を入れようとしています。ワープロを使っていて単語がわからなくなると辞書を引きますよね。でも、電子辞書が入っていればそのわずらわしさがなくなります。
浅田: たしかにパソコン操作の9割くらいはワープロ機能ですね。またよく使う機能は限られたもの。需要は多くあるように思います。
森: これまでも復刻版をつくってほしいという声は多く、作家の方々のような根強いファンがいます。皆さん、フリーズすると今まで書いたものが水の泡となってしまうパソコンは恐怖感があって使えないそうです。でもワープロを使っていてそういったひどいめにあったことはないと。結局、彼らは秋葉原でワープロの中古機を買いあさっているらしく、週刊誌に“ワープロ難民”などという記事まで出ていました。
浅田: では、研究にあたって大切にされてきたことは何でしょうか?
森: かつて、機械が我々の生活に入ってきた当初、人間は機械の奴隷になってしまっていたと言えませんか?しかし、私はこの現象は妙なことだと思ったのです。人間と機械が共に住む世界を作り出していくことを考えたら“人間が機械にあわせる”のではなく、むしろその逆で“機械が人間にあわせる”のでなくては、と。機械のほうが勉強して、私たちが使えば使うほど使い勝手がよくなる、という方向付けで機械を設計しなくてはならない。これが文字読み取り機の開発から一貫して行ってきた私たちの研究思想です。
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3 理想は知的興奮の場となる教育
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