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『「法律学に興味を持ってもらうきっかけになれば」 弁護士では成し得ないことを、小説を通して成したい』

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「法律学に興味を持ってもらうきっかけになれば」 弁護士では成し得ないことを、小説を通して成したい

「法律学に興味を持ってもらうきっかけになれば」 弁護士では成し得ないことを、小説を通して成したい

【本記事は2020年10月6日に公開したものです】司法試験の合格者の五十嵐律人氏が2019年4月、小説『法廷遊戯』(講談社)で、新人作家の登竜門として知られるメフィスト賞(主催:講談社)を受賞した。五十嵐氏は、現在司法修習中。ロースクールと法廷を舞台にしたリーガルミステリーを通して世の中に伝えたいことや、作家兼法曹家として実現したいこと、自身も通っていたロースクール制度に対する想いなどについて聞いた(インタビュー日:9月3日)。

ロースクールは、法律がテーマの作品の舞台としてふさわしい

ーー小説「法廷遊戯」の第1部で、ロースクールを舞台に選んだ理由を聞かせてください。

「法律をテーマにしやすい場所だったこと」「自分がロースクール出身であること」から選びました。

人によって通う目的が異なる大学とは違い、ロースクールは、「司法試験合格」という共通のゴールを目指す場所なので、ある意味殺伐とした、閉じた社会の典型例だと思っています。法律をテーマにしやすいだけでなく、人間関係の拗れを表現しやすいので、リーガルミステリーの舞台として適していると考えました。

第1部で、擬似法廷での「無辜ゲーム」(作中に出てくるゲーム。模擬法廷を使った私的裁判で、 告訴者が証人尋問や証拠調べを請求し、犯人を指定する。その結論が審判者の心証と合致すれば、犯人に罰を与えることができるルール)という一見不合理なゲームが出てきます。このゲームで俎上に載るのは、中傷ビラの配布や窃盗などといった同じロースクールに通う生徒同士のトラブルなのですが、それが成立するのも、ドロドロした人間関係が一つの要因になっています。

ーー作中で主人公たちが通う「法都大ロースクール」を、過去5年合格者がいない設定にした理由を聞かせください。


過去5年司法試験への合格者がいないロースクールは、自分の中で、それほど珍しくないロースクール像だったためです。 この描写に対して、法曹の方からは「一時期は、普通にあったよね」という反応だったのに対し、
一般の方からは「こんな底辺のロースクールがあるんだ」といった反応だったことに少し驚きました。ロースクールは、一般の方からは、司法試験の合格に直結した制度だと思われているのだなと感じました。

ーー五十嵐さんも通われていたとのことですが、ロースクール制度についてどう思いますか。

私はまだ司法修習中の身で、法曹になったわけではないので、踏み込んで意見できる立場にはないのですが、個人の考えとしては、「(法曹への)敷居を下げてくれた」という意味で、ロースクール制度はあってよかったと思っています。この制度がなければ、私は司法試験を受けていなかっただろうと思うからです。

もともと弁護士を志望していたわけではなく、法学部を選んだのも、将来的に選択肢が広がると考えたからでした。大学一年生の時に総論的に法律を学び、「面白い。法律をもっと勉強したい」と思い、ロースクールに進学を決めた経緯があります。ロースクールでも法律を面白く感じたので、司法試験を受けることを決めました。ですので、現行のロースクール制度を前提として、より良い方向に向かうように議論が進んでいけばいいなと思っています。

ーーロースクールで学んだことは、司法試験の合格に直結しましたか。

ロースクールは、予備校のような効率を重視した授業ではないので、司法試験の合格に直結しているかというと、必ずしもそうではない気はしています。しかし、司法修習では、プラスになっていると感じます。

ロースクールには、法曹三者の教官が在籍しているので、「法曹現場の生の声が聞ける」ことが一つのアドバンテージだと思います。予備試験合格者に話を聞いた感じでは、司法修習前に持っていた実務のイメージと、実際の現場に近い司法修習にはギャップがある様子でしたが、ロースクールを出ていると大きな違和感は覚えませんでした。

ーー現在、ロースクールに通う人が減っている点はどのように考えていますか。


私が通っていた2013年と今とでは状況が違うと思いますが、「今のロースクール制度が失敗しているから、進学する人が減っている」というよりも、司法制度改革の実情が広まったことで、「法律家に対する強い想いを持っている人や、司法試験に合格する自信がある人だけが、ロースクールに進学している」という、ある種適正な状態になっているのではないかと考えています。個人的には、そこまで悲観することではないと思っています。

ーーロースクールに進学する前や在学中に、予備試験の受験は考えましたか。


私がロースクールに進学したのが2013年で、司法試験に合格したのは2015年でした。その頃は、まだ予備試験が始まったくらいのタイミングだったため、受験は考えていませんでした。

作家としての立場や目線があるからこそ、取り組める社会活動がある

ーー司法試験に合格し、法曹家の道が見えてきたことで、作家としての道との間に迷いはありましたか。

もともと「弁護士になりたい」という気持ちが強かったわけではなく、好きで法律を学んでいたので、司法試験に合格した後、法曹になるか迷った時期がありました。

このまま弁護士としての道に進むのでなく、もう少し何かに挑戦したいと考えた時に、「中学生の頃に、小説を書ききれずに挫折した」ことを思い出しました。「当時は、何を書けばいいかわからなかったから挫折したのだ」と考え、「今なら、法律を題材とした自分にしか書けない小説が書けるのではないか」と思い、挑戦することにしました。

司法試験に合格したのが今から5年前、小説を書き始めたのが4年前、メフィスト賞を受賞したのが1年と少し前になります。作家デビューと、同時に司法修習にいくことを決めた形になります。

弁護士になった後のことは、まだはっきり決めていませんが、刑事事件には積極的に取り組んでいきたいと考えています。

ーー作家と弁護士の二足のわらじを履くことに対して、思うところはありますか。

作家デビューと同時に司法修習に行くことを決めた当時は、作家兼弁護士という立場に思うところはありました。特に、「依頼者がどう思うか」を懸念していましたね。もしかしたら、「ミステリー作家に相談しても大丈夫だろうか」と不安に思う依頼者がいるかもしれないと考えました。

就職活動をしていく上で、弁護士の先輩方から「作家という別の立場もあった方が、固定観念に囚われないものの見方ができる。法教育に携わるなどの、他の弁護士ができない活動ができるのではないか」といった言葉をもらえることが多く、今は抵抗はありません。作家兼弁護士という立場が受け入れられるかどうかは、これからの自分の活動が重要になってくると考えています。

ーー法教育という言葉がありましたが、義務教育における法教育について、どのように感じていますか。

現状どうなっているかはわかりませんが、私が義務教育を受けていた時は、深く掘り下げた内容は教えていなかったように記憶しています。

たとえば、「ツーブロック禁止」の校則が話題になったとき、「定められた校則は守らなければならない」という認識だけが先行していて、「どのような手続を取れば校則を変えられるのか」といった視点が欠けているように感じました。校則は生徒を縛る「ルール」であると同時に、生徒を守る「権利」でもある。そういったことを教えるのも、法教育の重要な役割だと思います。

今よりも充実した法教育が行われて、「ルール」や「権利」の在り方を正しく認識する生徒が増えれば、社会の見方が養われますし、今後どのように生きていくかを考える上で、プラスになるのではないでしょうか。

ーー「法廷遊戯」を通して、世の中に伝えたいメッセージについて聞かせてください。

「法律の面白さ」を、子供たちや若い世代、法律にあまりいいイメージを持っていなかったり、興味がない人々に伝えたいですね。

もし自分が中高生の頃に、面白いリーガルミステリーを読んでいたら、もっと早い段階から法曹に興味を持っていたかもしれません。私の小説が、法律に興味を持つきっかけになり、そこから「自ら法律を学びたい」と思ってくれる人が出て来たら、とてもうれしいですね。

ーー次回作も決定しているとのことですが、今作同様、若い世代が手に取りやすいリーガルミステリーになるのでしょうか。


はい。「不可逆少年」は、来年(2021年)の早い時期の刊行を予定しており、タイトルの通り、少年犯罪がテーマです。家庭裁判所調査官が関わってくる物語で、今作よりも青春要素が強く、より若い世代にも届けられる作品になっています。

法的な解釈を中核に据えた物語

ーー「法律の面白さを伝えたい」とのお話がありましたが、法律に詳しくない人が読んでも楽しめるように工夫された点について、聞かせてください。

構成については、第1部で「無辜ゲーム」を行い、第2部を法廷劇にしました。これは、いきなり法廷劇から始まるよりも、ゲーム要素の強い話を最初に持ってきた方が、後半の法廷劇がわかりやすいのではないかと思ったためです。

また、第2部に入ってからは、法廷劇がメインになるため、より法律用語や解説が増えますが、可能な限り、わかりやすい表現を心がけました。しかし、いざ受賞が決まり、編集者とやりとりをすると、自分の中ではわかりやすくしたつもりでも、法律に詳しくない方からするとわかりにくい表現がいくつか残っていました。

例えば、「期日」。自分の中では、「裁判=期日」が常識ですが、法律に詳しくない人が期日と聞くと、漢字はイメージできても、「何の期日なのか?」がわからない。こういったことは、法律が当たり前の世界にいる自分だけでは気づくことが難しいです。編集者とのやりとりや読者からの感想、レビューなどを見て、常に新しい発見をしていますね。

感想やレビューでは、思いの外、「わかりやすく説明されていた」「(法曹は)かなり遠い世界だと思っていたが、読んでみたら意外と近い世界だった」「冤罪について、もっと考えないといけないなと思った」などの感想をいただけて、大変うれしく思っています。これからも、より読者にわかりやすい表現を心がけていきたいです。

ーー作品についても、いくつか聞かせてください。今作では、犯行の動機や事件のトリックを解明する上で、法的な解釈が重要な鍵を握っています。日本のミステリーではあまり見られない形式ですが、どのような意図で書いたのですか。

「リーガルミステリーにすること」「裁判を正面から扱うこと」を最初に決めていました。リーガルとトリックは、必ずしも融合するものではありませんが、リーガルミステリーを書く以上は、トリックもリーガルに寄ったもの、法的な解釈を用いることで謎が解けていくものにしたいと考えました。

トリックを考えたあとに、キャラクターを決めました。キャラクターが固まった時点で、私的制裁の可否の描き方や結末も決まりましたね。

ーー弁護士というと、一般的にクリーンなイメージがありますが、あえて主人公を、非行歴のある弁護士にした理由について聞かせてください。

まず、殺人事件の謎を解き明かすなら、検察官か弁護人がいいだろうと考えました。次に、裁判で無罪主張をするためには、弁護人が適切だと思い、弁護士に決めました。

弁護士は、一般的に「正義の執行者」というイメージがありますが、今作では、殺人事件を扱うので、そこに辿り着くのに見合う道義がついてくるようにしたかった。そこで、影のある人物像にしました。「かつて過ちを犯した人物が、その後どうやって生きていくのか」に焦点を当てたいという想いもありましたね。

『法廷遊戯』公式サイト:https://houtei.kodansha.co.jp/

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