<コラム>史上最短で殿堂入り、「バーチャルアイドル」の域を超えるPLAVEの勢いが止まらない
- ️Fri Feb 25 2028
Text: DJ泡沫
(C) VLAST
5人組K-POPバーチャルアイドル、PLAVE(プレイブ)が、バーチャルとリアルの境界を超えて、K-POPシーンに新たな歴史を刻んでいる。今年2月3日にリリースされた3rdミニアルバム『Caligo Pt.1』が、韓国の主要音楽配信サイトMelonのTOP100チャートの1位から5位までを独占するなど、まさにチャートジャックを達成した。2024年3月5日公開(集計期間:2月24日~3月2日)のBillboard JAPAN週間アルバム・セールス・チャート“Top Albums Sales”では77,284枚を売り上げて初登場1位、総合アルバム・チャート“Hot Albums”では9位にチャートインもした。
また、Melonの24時間の累積ストリーミング数が1,100万回を突破し、Melonでリリースされたアルバムの中で歴代最高記録をも達成。「ビリオンズクラブ」と呼ばれる、デビュー以来、累計10億ストリーミングを突破したアーティストに与えられる称号を史上最速で獲得し、今回の3rdミニアルバムで24時間最高ストリーミングミリオンズアルバム記録も達成したことで、ビリオンズクラブ入りとミリオンズアルバムの記録を両方保持する持つ唯一のアーティストにもなった。
バーチャルアーティスト/アイドルは日本ではお馴染みだが、韓国の音楽メインストリームで第一線を走る同類アーティストは極めて少ない。K-POPアーティストと変わらない活動や音楽性に加え、バーチャルならではの特性が加わり、ジャンルやファン層の域を超えて、ファンを増やし続けている5人の成長を、他グループとは違う特徴を交えながら紹介しよう。
PLAVEは、YEJUN(イェジュン)、NOAH(ノア)、BAMBY(バンビ)、EUNHO(ウノ)、HAMIN(ハミン)からなる5⼈組K-POPバーチャルアイドルで、2023年3⽉に韓国でデビューした。“Play”と“Rêve(夢)”を組み合わせたグループ名で、夢を叶えるために新しい世界を作っていくという意味が込められている。作詞、作曲、振付制作などをメンバーたちが⼿掛けるセルフプロデュースグループだ。
イェジュン、ノア、バンビ、ウノ、ハミン
韓国のTV局MBCの社内ベンチャーがベースであるPLAVEの所属事務所VLASTは、元々VFX(Visual Effects)技術が専門だ。韓国にVTuberやバーチャル歌手は以前から存在しており、PLAVEがデビューする少し前にも、女性のバーチャルアイドルグループ「異世界アイドル」が、韓国の主要音源サービスMelonにチャートインして注目を集めていた。
異世界アイドルはTwitchで活動している個人VTuberによるユニットだが、PLAVEの特異な点は、ウェブトゥーン風のアバター(PLAVEのアバターデザインは人気ウェブトゥーン作家によるもの)を利用したバーチャルアイドルではあるものの、グループとして事務所に所属し、楽曲リリースに伴う音楽番組出演やコンサートなど、一般的な「K-POPアイドル」のような活動を行っているところだろう。カムバック期間以外は主にYouTubeで生配信を行っているが、【KCON】や【MAMA AWARDS】のようなイベント・アワードにも出演し、アルバム購入者向けの「ヨントン(1対1のビデオ通話)」でファンとリアルタイムでコミュニケーションを取ることもできる。
パフォーマンスの部分ではリアルタイムグラフィックの二次元風アバターを作るために新しいシェーダー(3Dオブジェクトの描画や陰影処理、色、質感計算を行うプログラム)を開発し、モーションキャプチャー・アルゴリズムの改良を通じて既存のVTuberの音楽パフォーマンスの動きとも異なる、K-POPの代名詞とも言えるカル群舞(キレのあるシンクロダンス)の動きを再現して見せることに成功している。AIではなく、「中の人」がいるスタイルとしてはほぼ初めての本格的な「バーチャルアイドルグループ」だ。そのため韓国では、初期には楽曲探しが困難だったり、動きを投影させる器具をつけたパフォーマンスが前提のため振付師に戸惑いがあったり、バーチャル公演経験のない会場側からコンサート使用を断られたりと、製作面での苦労があったという。
VLASTの代表ウィリアムは、「私たちは無名の会社ですし、メンバーたちは『(バーチャルアイドルに)作曲家がA級の楽曲はくれない』と感じていました」「一般的なアイドルコンサートを行うような会場は、ほとんどが断ってきました。バーチャルアイドルの公演事例がなかったので、本当に大変で苦労しました」と、厳しい現実を目の当たりにした。
「セルフプロデュースグループ」というスタイルも、このような問題を解決する手段としてメンバーが直接制作に関わるようになった面もあるようだ。メンバーの3人が作曲できるため、「代表、僕たちで作ってみましょうか」と言って、誕生したのがデビュー曲「Wait for you」という、涙ぐましいエピソードもある。
また、当初は外部の方に振付の制作を依頼する予定だったが、ノアの説得により、バンビとハミンが自ら振付を手がけることになり、「Wait for you」の振付が完成したという。馴染みのないコンセプトのため、質の高い楽曲やトレンドを反映した振付がなかなか提供されなかった状況から一転、メンバーそれぞれのスキルを発揮することで、グループのスタイルを確立させる大きな一歩となった。
カムバックごとに音楽番組に出演して1位を獲得したり、ほかのK-POPアーティストとSNS上でダンスチャレンジを公開したり、活動スタイルは「K-POPアイドル」だが、見た目はウェブトゥーンであるがゆえに、音楽系だけではなくアニメやゲームなどの二次元コンテンツ系のイベントやアニメイトなどでのより幅広いIP展開が可能なのは、PLAVEならではの強みと言えるだろう。
2023年の1stシングルアルバム『ASTERUM』は発売直後に売切れが続出し、入手困難になるなど、デビュー直後からある程度の注目を集めていたが、当初は二次元コンテンツのファンがメインだったという。しかし1stミニアルバム『ASTERUM: The Shape of Things to Come』は初動20万枚、続く2ndミニアルバム『ASTERUM:134-1』は56万枚と、着実にファンダムを拡大させ、今回の3rdミニアルバム『Caligo Pt.1』は初動(発売初週の販売枚数)が1,038,308枚を記録し、103万枚を突破した。また、音盤売上が100万枚を超えるようなボーイズグループでもトップに入るのはなかなか難しくなっている音源チャートでも強いのが特殊な点で、2024年8月のデジタルシングル「Pump Up The Volume!」は発売から6時間で初めてMelonチャートTOP100で1位を記録、2024年に初めてTOP100で1位を達成した男性アイドルグループとなった。
「バーチャルアイドル」という特異な存在でありながら、楽曲自体はシンプルに聴きやすさを追求している印象で、個々のボーカル自体をメインに据えたよりクラシックなK-POPスタイルのアプローチと言えるだろう。『Caligo Pt.1』の収録曲を見ても、1曲目の「Chroma Drift」はレトロ風味のシティポップだが、バンビとウノの過去を描いたウェブトゥーンをタイトルに使用し、過去と現在、バーチャルとリアルを混ぜたコンセプトに沿ったような楽曲ジャンルの選択の仕方だ。
タイトル曲「Dash」は早くもミュージック・ビデオが1,000万回再生を突破。本曲は、米ビルボードが発表した“Billboard Global 200”と“Billboard Global Excl. U.S.”の両方にチャートインしたのだが、これは男性K-POPバーチャルアイドルでは初の快挙だ。強烈なロックベースの楽曲だが、パワフルなボーカルとラップは近年のK-POPでのバンドブームとも少し異なる90年代のミクスチャーロックを思わせる。
中毒性のあるヒップホップリズムとオートチューンが印象的な「RIZZ」は、収録曲の中では近年のK-POPらしさを感じるポップな感触だ。「Island」「12:32 (A to T)」のようなボーカルを聴かせる幻想的な雰囲気の楽曲はPLAVEのシグネチャーでもある。バーチャルという最先端でありながら、音楽面では正統派のアプローチというのがポイントなのかもしれない。
2024年7⽉には、デビューから約1年4か⽉でストリーミング総再⽣数10億回を達成し、Melonの殿堂「ビリオンズクラブ」に史上最短で名を連ねた。10⽉には、4⽉に韓国で2日間⾏われた初の単独コンサートのアンコール公演【PLAVE FAN CONCERT 'Hello, Asterum!' ENCORE】のチケットが先⾏販売開始10分で完売。⽇本でも東京と⼤阪の劇場でライブビューイングが実施された。デビュー前にもかかわらず、⽇本最⼤級のファッション&⾳楽イベント【Rakuten GirlsAward 2024 AUTUMN/WINTER】にも出演。また、12⽉に発売された『anan』スペシャルエディションは、表紙の登場が発表されると、わずか1⽇で海外の書店での品切れが続出し、anan史上初の“海外重版”となった。2月には早くも2回目の単独表紙かつ、表紙&裏表紙ジャックもしている。日本最大級の女性向け二次元コンテンツイベント【Animate Girls Festival】に出展したブースにも行列ができるなど、「VTuberの本場」とも言える日本でも活動の場を広げている。
anan2436号PLAVEスペシャルエディション Ⓒマガジンハウス
代表ウィリアムが「エンターテインメントの本質は“人を幸せにすること”。VLASTのメンバーも、アーティストたちも、バーチャルアイドルという新しい手法でファンに楽しさを届けることに、大きなやりがいを感じています。リアルタイムグラフィックという新しいメディアで、エンタメの新しい領域を切り拓いていきます」と語ったのが、2023年11月のこと。バーチャルという新しい形式によるグループという点を超えて、K-POPグループとしてもシーンに新しい歴史を刻んでいるPLAVEの活躍が、さらに期待される年になりそうだ。