kawasaki-sym-hall.jp

『歌劇 サロメ』

  • ️Invalid Date

東響楽団員が語るノットの魅力、《サロメ》への期待

東響楽員座談会 参加メンバー(左から):小林壱成さん(コンサートマスター)、近藤千花子さん(クラリネット奏者)、大野雄太さん(首席ホルン奏者)、青木篤子さん(首席ヴィオラ奏者)、水谷晃さん(コンサートマスター)

 ジョナサン・ノット音楽監督9年目のシーズン、ますます快進撃を続けるノット×東京交響楽団の名コンビ。その舞台裏に迫るべく、ぶらあぼによる東響楽員座談会が7月に開催されました。メンバーはコンサートマスターの水谷晃さん・小林壱成さん、ヴィオラの青木篤子さん、クラリネットの近藤千花子さん、ホルンの大野雄太さんの5名。ぶらあぼONLINEで掲載された全4回の連載記事から、オペラ・シリーズ第一弾(ダ・ポンテ3部作)での数々のエピソードや、今秋の《サロメ》への大いなる期待が語られた後半回を編集部の許可を得て転載します。仲間同士の気負いない会話のはしばしに、ノット監督への信頼と尊敬をひしひしと感じる楽屋トーク、ぜひご覧ください。

* * *

[編注:印象的だったノット監督公演でのエピソードを中心に、彼の魅力やオーケストラとの関係性についてあれこれ話してきた5人。話題は、オペラ・シリーズ第一弾のエピソードへ]

水谷 ホールオペラってのがあったんですよ、ダ・ポンテ3部作をやった。

大野 もうすごい企画で、今でもやっぱり鮮烈に記憶してるね、あれは。

水谷 もう1回目のコジが衝撃的だった。コジ・ファン・トゥッテ、ドン・ジョヴァンニ、フィガロの結婚の順番だったかな。弦楽器は編成が小さいから皆参加したくて争奪戦になったもん。

近藤 そうなんだ。

水谷 まずコジは様子見って感じでみんな入ってて、それが良かったから、爆発的になって。じゃ次も! みたいな感じで。

青木 (笑)

小林 ノット監督のキャリアは歌劇場からスタートしてますもんね。

大野 彼のチェンバロがすごく面白い。

水谷青木近藤 そうなんだよ!

青木 よかったよねー。またニヤニヤしながら弾くんだよねー。

小林 (笑)

近藤 ドン・ジョヴァンニだったかな、1回歌手が落ちて(暗譜が一時的に飛んでしまうこと)。チェンバロ弾きながら楽譜指して、ここ、ここ!みたいな。

水谷 歌手も最高だから、落ちたとかじゃなくてその瞬間もドラマにしちゃう。

近藤 そうそうそうそう。

水谷 反則だよね(笑)笑いを取っちゃう。

近藤 こっちも笑っちゃうし、なんかすごく舞台に”参加してる” って感じ。

水谷 そうそう、巻き込んで参加してる。

小林 まあでも、それはそれなりの違うスタンスでってことで。

大野 確かに。モーツァルトと違って遊びの部分がないでしょう。

青木 でもさ、英雄の生涯もやった、ドン・キホーテもやった。

水谷 この前はドン・ファンもやって。

青木 そう、なんか楽器を弾いてる感じじゃないよね。ノット監督とやってると。

水谷 そうね。

青木 歌わされてる、喋らされてる感じ。

近藤 喋ってる感じ。

青木 だから、その延長線上でいくのかなと思ってるんだけど。

水谷 わかる。僕も、この前ドン・ファン弾いてて、「あ、この延長線上にサロメがくるんだろうな」っていうのは思った。ほんとに響きが折り重なる感じで、ミューザも素晴らしい音響で重層的にミックスされてきて。

青木 マーラーのリハーサルでも、本当に色んなところから情報が聞こえてきて、それを全部崩壊するギリギリのところまで攻めさせて、でもちゃんとまとめるじゃないですか。あれがね…どうなってるんだろうなって。千手観音みたい。

水谷 でも最初はうまくいかなかったよね。

近藤 最初のシーズンですか?

水谷 僕すっごいヘコんで、人生間違えたと思ったもん。就任披露のマーラーの9番。あんな怖い指揮者いないと思った。

一同 あぁ…。うーん…。

水谷 第九もそうだったけど、ノット監督は同じ事はやらない。前にやったときはこうだったんだけど、今回は違うんだってこととかも言ってたもんね。アーティキュレーションとか本当はこうしたかったとか、バンベルクの素晴らしい録音があるのにも関わらず。

青木 「俺の過去の録音は聴くな」とか言ったこともあったね。

水谷 事前にノットの録音で勉強してきた感じが見られると怒るよね。自分だってアップデートされてるんだから、それでやってくれって。

青木 今の俺と向き合ってくれ、じゃないけど(笑)

一同 (笑)

水谷 就任披露マーラーの9番の前のダフクロ(ダフニスとクロエ)は乗ってたの?

近藤 うん、いたいた。

水谷 それがとんでもなかったんでしょう?

近藤 とんでもなかった!全員目がハートでしたよ。

青木 でも難しかった。こういうタイプの指揮者が私は初めてだったので。どうしていいかわかんなくって。だけどこの人と一緒にずっとやりたいなって。

一同 うんうん。

青木 私はダフクロでものすごく凹んだ。

小林 あぁ、やっぱり1回目はショックがあるんだ。

青木 もうこんなに弾けないのか自分って思って。

近藤 なんかこう、不甲斐ないっていう気持ちがあったけど…

青木 そう、不甲斐ない…!!

近藤 それも込みで、完璧にはできないけど…。それまで固めてない…

大野 わかるわかる。固めないって。

青木 関節がいつも柔軟な感じね。

近藤 あとはもう自由だから、みたいな。

青木 だから練習をそのまま持ってくる指揮者とは全然違う。

近藤 入ってくる時からなんか違う時とかあるよね。

青木 日によって違ったりするね。でも人間は日によって違うのは当たり前で、なんかそういう意味ですごく人間的だし、自分も生き物だし、オーケストラの一人ひとりも生き物だし、オーケストラも生き物だし、音楽も生き物っていうすごくそれを大切にしている人だから、楽!本当に楽!しんどいけど楽!何だろうこれ(笑)

大野 わかるなぁ、それは。例えばリハーサルの初日と2日目で言うこと違うと、何だよ言うこと違うじゃないかって楽員が結構カチンときたりするんだけど、ノット監督の場合は、まぁそれはそうだろうって(笑)

一同 (爆笑)

水谷 僕もものすごく監督を信頼してるんだけど、同時に信頼してないもんね(笑)あぁ、もうそう振る?絶対違うだろうなって思ってるもん。

大野 今日はそういうことねってね(笑)

水谷 でも、そうなるまでやっぱり時間かかったよね。それが多数派にならないとオケって動かないじゃん。

大野 確かに。

水谷 動いてる監督からなるべく遠ざかるって時期もあったし…。

近藤 あったね…

水谷 だけどそれを一人、一人、また一人って参加しだして、ようやくリヒャルト・シュトラウスのオペラまでできるかなっていうところまでなってるんだと思うんだよなぁ。

一同 (笑)

小林 ノット監督はすごくクレバーな方だから、オケをどうやってレベルアップさせて、みんなにどうやってインスピレーションを与え続けるかってことまで考えていらっしゃるから。それで多分このタイミングでサロメなんだと思う。

大野 (ステージの)どこで歌うんだろうね

水谷 サロメは編成が大きいからね。演奏会形式みたいになるのかなぁ。

大野 普通に前で歌うのかなぁ。

青木 やっぱピットに入るよりも、歌がこう体感できる。

小林 ピットでオペラやってる時って何も見えない状態…

大野 ホルンは本当に何にも見えない。だから《メリーウィドウ》なんかやっても何にも面白くないもん。

一同 (爆笑)

大野 女の子たちが踊ってんのかも何にも見えない!

小林 そう、だからそういう意味では本当に演奏会形式はすごく良い。

水谷 1つの空間でね。

小林 そう、1つの空間でみんながこう、ぎゅっとなる。それでノット監督のあの感じだから。すごく面白そうだなって思っちゃう。

水谷 しかも連れて来てくださる歌手がいっつも最高なんだよね。

一同 そうそうそう! 

小林 グリゴリアンがマジですごいらしい。

水谷 え、ほんと!?

小林 世界一のサロメだって言われている…

一同 へぇ…!!!

小林 少し前に読響のシェフのヴァイグレさんとお話ししたとき、「この人とやるんだよね」って言ったら、「本当に素晴らしいよ」みたいなこと言われた。

青木 いぇーい!

近藤 そっか、楽しみ

水谷 とにかく無事できるように…。ね…。だって《トリスタンとイゾルデ》が流れた時のショックったら…なかったもん。
(編注:東響定期演奏会で2020年10月に《トリスタンとイゾルデ》上演を予定していたが、コロナ禍の入国制限で出演者陣の来日が叶わず、中止となった。)

大野 あれはね、本当に…

水谷 スーパースターの方だから、スケジュール的にもう2度とこのメンバーが組めないような中、本当にいろんな方が苦労してくださって、その日たった2日間の演奏会のためにすべて時間を作ってくれたのが、一瞬にしてこうなるわけだから…。とにかく《サロメ》できたらいいですよね…

青木 神社にお参りしとこ…

一同 (笑)

大野 演奏会形式だと、ステージとしては、演出がシンプルな分、音楽には注力できるでしょう?

一同 うんうん

大野 もしかしたら歌手もスコア見るかもしれないから、やっぱりクオリティとしてはすごく上がる。みんな目をつぶって聞けば、いろんなステージが思い浮かべられるだろうし。そういう点では《サロメ》を演奏会形式ってのは良いアイデアかもしれない。

水谷 そうね。しかもさっきの話のように、意味がある音をすると伝わるって話だと演奏会で壮大な音楽…

近藤 やっぱりお客さんと、オーケストラと物理的な距離がめちゃくちゃ近いから。歌手も。

水谷 そうね。僕らもやりやすいからね、いつもシンフォニーのスタイルだと。

小林 劇を見る楽しさと音楽を見る楽しさと、オーケストラを聴く楽しさを、全部、このホールで楽しめるからね。

青木 いやぁ、客席でみたいなぁ…!

一同 (笑)

大野 降りる!?

青木 今から?!

大野 ホルン6本でセクション全員参加だから降りようがないんだよなぁ…

一同 (爆笑)

水谷 そうだ!

青木 6本だから(笑)

大野 みんなでステージ上でね、体験したいと思います。

(おわり)