学校施設の防犯対策について:文部科学省
学校施設の防犯対策について
平成14年11月
学校施設の安全管理に関する調査研究協力者会議
はじめに
本来、学校は夢を育む安全で楽しい場所でなければならない。しかし、平成11年12月に京都市小学校で、平成13年6月に大阪教育大学附属小学校で起きた事件は、学校施設の安全管理、中でも防犯対策の在り方を改めて問うものであった。
本調査研究協力者会議は、これらの事件を始めとした近年の学校における犯罪の増加に鑑み、学校施設の防犯対策等の安全管理の在り方を検討するため平成13年11月に設置され、学校建築、防犯、学校安全等の分野を専門とする学識経験者、学校教育や行政の関係者、防犯実務者等が参画した。
これまで約1年にわたってそれぞれの専門を活かした活発な議論を行い、その間、国内の学校や公共住宅、また、銃乱射事件のあった米国等の学校について、それらの施設の安全管理に係る取組みに関し現地調査を実施し、さらに、大阪教育大学附属小学校事件のご遺族との会合を持つ機会も得た。これらの成果を踏まえて、学校内への侵入犯罪に係る施設・設備面を中心とした防犯対策に焦点をあて、小中学校を中心に他の学校種も視野に入れて検討を行った結果を、今般報告書として取りまとめるに至ったものである。
第1章では、我が国の各学校施設において考慮すべき防犯対策に係る基本的な考え方を述べ、第2章において、敷地境界、敷地内部、建物の防犯対策、防犯監視システムや通報システムの導入等、学校の設置者が、各地域や各学校の特性に応じて学校施設の防犯対策を具体的に計画・設計する際の留意点を例示した。また、第3章において、学校施設の防犯対策に関する今後の推進方策を述べ、全体として学校施設における防犯対策の在り方について総合的に提言した内容となっている。
もとより、施設・設備面における対策のみで児童生徒等の安全を守り切ることには限界があり、また、物理的に学校を閉鎖することによって学習環境が損なわれたり、地域との連携が阻害されたりすることは好ましくない。従って、学校の安全管理を推進するためには、施設・設備面における対策とともに、教職員の意識向上を含めた学校の管理運営面での対応や、学校と保護者や地域の関係機関・団体等との協力体制の確立等のソフト面での取組みが不可欠である。さらに、関係者が学校安全について、それぞれの立場、責任において継続的に取組み、不断の努力を重ねることが必要とされる。
学校の防犯対策を推進するためには、学校設置者をはじめとする学校の計画、設計、管理運営に係る関係者が、本報告書の内容のみならず個々の学校の状況に応じて検討を行い、具体的な対策を講じることが重要である。さらに、文部科学省等で実施しているソフト面での取組みとも有機的に連動させることによって、安全で安心感のある豊かな教育環境としての学校施設づくりが全国で進展することを、本協力者会議としては切に期待するものである。
第1章 学校施設における防犯対策の方針 | |
1 背景 | |
(1)学校を取り巻く社会状況 | |
(2)学校の安全管理に関するこれまでの取組み | |
(3)学校施設における防犯対策の検討の必要性 | |
2 学校施設の防犯対策を考える上での重要な視点 | |
(1)設置者等の責務 | |
(2)ソフト面の防犯対策との連携 | |
(3)地域との協力体制の確立 | |
3 学校施設の防犯対策に係る基本的な考え方 | |
(1)地域に開かれた学校施設とその防犯対策の在り方 | |
(2)学校施設における防犯対策の視点 | |
(3)既存学校施設の防犯対策の推進 | |
第2章 学校施設の防犯対策に係る計画・設計上の留意点 | |
1 学校施設における防犯対策の原則 | |
(1)全体的な防犯計画 | |
(2)視認性・領域性の確保 | |
(3)接近・侵入の制御 | |
(4)定期的な点検・評価の実施 | |
(5)防犯設備等の積極的な活用 | |
2 敷地境界及び敷地内部の防犯対策 | |
(1)施設配置 | |
(2)門 | |
(3)囲障 | |
(4)外灯 | |
(5)植栽 | |
(6)駐車場、駐輪場等 | |
3 建物の防犯対策 | |
(1)受付 | |
(2)窓・出入り口 | |
(3)避難経路 | |
4 防犯監視システムの導入 | |
(1)設置目的・場所 | |
(2)出入管理 | |
(3)侵入監視 | |
(4)監視体制への配慮 | |
(5)夜間・休日の機械警備 | |
5 通報システムの導入 | |
(1)通報装置 | |
(2)連絡システム | |
6 その他の留意点 | |
(1)学校施設の開放時の留意点 | |
(2)複合施設の場合の留意点 | |
(3)通学路の安全性の確保 | |
第3章 学校施設における防犯対策の推進方策 | |
(1)学校施設整備指針における防犯対策関連規定の改正 | |
(2)手引書の作成 | |
(3)研修会の実施 | |
(4)チェックリストやマニュアル等の作成及び活用 | |
(5)補助事業等の積極的な活用 | |
(6)海外の先進事例等の研究 | |
(7)ソフト面を併せた総合的な防犯対策の推進 | |
参考資料 | |
1 学校安全及び心のケアの充実 ~子ども安心プロジェクトについて~ | |
2 学校施設の安全管理に関する補助事業等 | |
3 学校で発生した刑法犯認知件数について | |
4 学校施設の安全管理に関する調査研究について |
1 背景
(1) | 学校を取り巻く社会状況 学校は、教育の場であると同時に、児童生徒等が一日の大半を過ごす生活の場でもあり、児童生徒等の健康と安全に十分留意する必要があることはもちろん、豊かな人間性を育む潤いのある快適な空間として整備し維持される必要がある。 学校施設については、昭和50年代頃から、教育内容の変化や教育方法の多様化等に対応し、例えば、個別学習やグループ学習に対応するための多目的スペースの設置、たくましく心豊かな子に育つ学校を目指した屋外教育環境の整備、コンピュータやLAN等を導入した情報環境の充実、学校の教育活動に家庭や地域の活力を導入するための地域・学校連携施設整備等、学校における学習環境の向上に寄与する整備や地域の学習拠点としての整備がこれまで推進されてきた。 しかしながら、近年、これまで予測することもできないような児童殺傷事件が、平成11年12月に京都市小学校で、平成13年6月に大阪教育大学附属小学校で発生し、社会的にも大きな衝撃を与え、児童生徒等の安全確保及び学校の安全管理を徹底する必要性が再認識された。また、諸外国の学校においても、児童生徒等の殺傷事件が複数の国で発生し、平成14年2月には学校の安全管理に関する国際会議がアメリカ合衆国ワシントンで開催される等、国際的にも学校の安全確保に関する関心が高まってきている。 警察庁のデータによると、我が国の学校で発生した刑法犯認知件数*1は、平成8年の29千件から平成13年の42千件へと増加してきており、放火、強盗等の凶悪犯罪も、48件から85件へと増加してきている。また、刑法犯認知件数の総数も増加しており、かつ、全体の検挙件数は減少してきている。学校教育や学校建築の関係者は、こういった現状を的確に認識し、対策を講じることが求められている。 |
(2) | 学校の安全管理に関するこれまでの取組み 児童生徒等が安全に安心して学校で過ごせるようにするためには、学校のみならず保護者や地域の関係機関・団体等が連携しつつ安全管理を徹底することが重要である。この観点から、文部科学省では、これまで、「幼児児童生徒の安全確保及び学校の安全管理についての点検項目(例)」を改訂し、平成13年8月に教育委員会等に対して改めて通知するとともに、「子ども安心プロジェクト」*2を平成14年度から開始する等の施策を推進してきている。 また、学校施設については、その計画・設計上の留意事項を示した学校施設整備指針において、小学校施設整備指針及び中学校施設整備指針は平成13年3月、幼稚園施設整備指針は平成14年3月の改訂時に、学校内への侵入犯罪に係る防犯対策等に関する規定が充実され、さらに、平成13年度からは学校施設の防犯対策に係る整関する規定が充実され、さらに、平成13年度からは学校施設の防犯対策に係る整備が国庫補助や地方交付税措置の対象とされてきているところである。 |
(3) | 学校施設における防犯対策の検討の必要性 学校において児童生徒等の安全はまず第一に確保される必要がある。学校内への侵入犯罪に係る防犯対策等をはじめとする安全管理の徹底について、これまでの我が国の学校施設整備の経緯をも踏まえ、今回改めて総合的かつ多角的な観点から検討を行うことが要請され、この調査研究協力者会議が設置されることとなった。 もとより、学校の安全管理は、施設整備のみならずソフト面を含めた全体的な取組みが必要であるし、地震等の災害時の対応や日常的な事故防止をも含むものであるが、本協力者会議では、学校内への侵入犯罪に係る施設・設備面を中心とした防犯対策について、主に小中学校を中心に他の学校種も視野に入れて検討を行った。 学校施設の防犯対策については、新築や増改築の場合のみならず、既存の学校施設についても必要であり、本報告はその際にも活用されることを前提に検討を行った。 また、ソフト面の防犯対策については、現在、前述の「子ども安心プロジェクト」の中で、「安全管理取組事例集等の作成」*3や「地域ぐるみの学校安全推進モデル事業」*4等が実施されているところであり、本報告と併せてそうした事業の成果を活用することが望まれる。 |
3 学校施設の防犯対策に係る基本的な考え方
(1) | 地域に開かれた学校施設とその防犯対策の在り方 学校施設については、地域住民にとって身近な公共施設として、様々な学習機会を提供する生涯学習の場や地域のまちづくりの核としての位置付け、災害時の一時的な避難場所としての役割等が期待されてきた。そして、これらの要請に対応するため、例えば、地域住民が休日、夜間等に学校施設を使用することや、平日において地域の様々な人材が学校での教育活動に参加しやすいようにするなど、地域に開かれた施設計画がこれまで推進されてきた。 このような中で、京都市小学校や大阪教育大学附属小学校の事件が発生し、改めて、地域に開かれた学校施設の在り方を検討することが必要となった。学校が家庭や社会に対し働きかけを行い、家庭や地域社会とともに児童生徒等を育てていくという観点から、保護者、自治会等の地域の様々な人材が学校における諸活動に参加することは大切であり、これを促進するための施設計画は今後も推進する必要がある。 しかしながら、今回の事件を踏まえ、重要なことは、不審者の侵入を抑止し来訪者が不審者でないことを確認するための施設計画や、万が一不審者が侵入した場合に児童生徒等の安全確保のために即応できるシステムについて、ソフト面での対応を含め十分に検討し対策を講じることであると言える。 学校における児童生徒等の安全がまず第一に確保される必要があることは論を待たない。また、地域に開かれた学校施設とは、不審者に対して何の備えもなく空間が開かれていることを意味するものではない。学校の設置者、教職員等の学校関係者、学校施設の計画・設計に携わる建築関係者等は、学校施設の防犯について意識を高め、各地域や各学校の特性に応じた具体的な防犯対策を実施し、その安全性を確保した上で、地域住民等が利用しやすく、また、学校の諸活動に対して協力しやすい学校施設づくりを推進するという視点を今後は一層明確に意識する必要がある。 その際、防犯対策を行うことによって、閉鎖的な学習環境になったり、地域住民が近寄り難い雰囲気にならないようにすることが大切であり、ゆとりや潤いといったデザイン上の工夫をするという視点も大切にする必要がある。 |
(2) | 学校施設における防犯対策の視点 学校施設における防犯対策については、 等の個々の学校の実情に応じて計画することが重要である。 さらに、これまでの学校施設については、不審者の侵入防止や侵入時の対応といった観点から十分に検討されてきたとは言えず、また、諸外国の学校施設における防犯に係る対応状況や防犯環境設計*5の考え方をも照らし合わせて考えると、各学校において、まずは次の対策を計画的に講じることが大切であり、その上で第2章で述べる計画・設計上の留意事項にそれぞれ配慮することが望ましい。 |
(3) | 既存学校施設の防犯対策の推進 学校施設の防犯対策については、新築、増築、改築、改造等の大規模な施設整備を行う際*6だけではなく、特に既存の学校施設については、施設の現状について点検・評価を行い、必要な予防措置を計画的に講じていくことが大切である。また、このことは、関係者が学校安全に関する意識を維持していく上でも有効である。 点検・評価は、地方公共団体等の学校の設置者が、各学校の教職員とともに、必要に応じ保護者、地域の関係機関・団体、建築や防犯に関する専門家等の協力の下に実施することが有効であり、その手法としては、次のようなことが考えられる。 |
第2章 学校施設の防犯対策に係る計画・設計上の留意点
1 学校施設における防犯対策の原則
(1) | 全体的な防犯計画 学校施設の防犯対策としては、敷地境界、敷地内、建物内等における建築計画的な対応と、防犯監視システムや通報システム等の建築設備的な対応がある。これらについては、「いつ」「どの範囲を」「どのような手段で」「何を防ぎ、誰を守る」のかを明確にし、ゆとりや潤いといったデザイン面での配慮、他の機能とのバランスや費用面での検討、地域社会との協力関係等を踏まえた上で、個々別々ではなく総合的に計画し、全体として整合性がとれたものとすることが大切である。 |
(2) | 視認性・領域性の確保 学校施設の防犯性を確保するために、屋外各部及び建物内の共用部分等は周囲からの見通しを確保した上で死角となる場所をなくし、また、どの範囲を何によってどう守るのかが明確になるよう、配置計画、動線計画、建物計画、各部位の設計等について工夫することが大切である。 さらに、やむを得ず死角となる場所については、囲障や防犯監視システムの設置、定期的な安全パトロールの実施等の配慮が大切である。 |
(3) | 接近・侵入の制御 犯罪企図者の動きを限定し、学校の敷地内や建物内等、守る範囲への接近・侵入を妨げ、犯罪を抑止するよう、配置計画、動線計画、建物計画、各部位の設計等について工夫することが大切である。 |
(4) | 定期的な点検・評価の実施 緊急事態が発生した際に機能しないような防犯対策では意味がない。従って、防犯対策に係る施設・設備については、定期的に、また、必要に応じて臨時にそれらの機能について点検・評価することが大切である。さらに、その結果を踏まえ、不都合が生じている場合は、迅速に改修、修理、交換等の改善措置を講じることが大切である。 |
(5) | 防犯設備等の積極的な活用 防犯設備には、出入管理と侵入監視を目的とする防犯監視システムや、非常時の連絡のための通報システムがある。これらの防犯設備、また、非常時の児童生徒等の避難経路等については、定期的な防犯訓練の実施等を通じて、その具体的な使用方法や使用ルートについて周知徹底を図ることが大切である。 |
2 敷地境界及び敷地内部の防犯対策
3 建物の防犯対策
(1) | 受付 |
(2) | 窓・出入り口 |
(3) | 避難経路 |
4 防犯監視システムの導入
(1) | 設置目的・場所 |
(2) | 出入管理 |
(3) | 侵入監視 |
(4) | 監視体制への配慮 防犯監視システムの導入に際しては、モニター等による監視体制を併せて考慮することが大切である。学校の教職員等が常時その場で監視する必要がないようにするため、例えば、出入り口に取り付けたセンサーが来訪者を検知した場合に、防犯カメラが当該場所を撮影し、同時にチャイム音で注意を喚起するという組み合わせによるシステムの導入も有効である。 |
(5) | 夜間・休日の機械警備 警備会社と連携した防犯監視システムを導入し、夜間や休日における建物内への侵入犯罪等の発生を把握し、適切に対応することで防犯対策をより確実なものとすることも有効である。 |
6 その他の留意点
(1) | 学校施設の開放時の留意点 |
(2) | 複合施設の場合の留意点 |
(3) | 通学路の安全性の確保 |
(1) | 学校施設整備指針における防犯対策関連規定の改正 文部科学省は、学校施設の計画・設計上の留意事項を規定した学校施設整備指針を各学校種別に取りまとめ、地方公共団体等に対して提示しており、学校施設の防犯対策に係る事項についてもその中で示されている。 とりわけ、小学校施設整備指針及び中学校施設整備指針については、平成13年3月の改訂時、幼稚園施設整備指針については、平成14年3月の改訂時に、それぞれ学校施設の防犯対策に関する規定が充実された。 今回の調査研究は、近年の社会状況を踏まえ、その規定内容についてより検討を深めたものである。本協力者会議としては、学校施設整備指針における学校施設の防犯対策に係る規定内容について、本報告を踏まえ、さらに一層充実させる必要があると考える。 |
(2) | 手引書の作成 本報告書は学校施設の防犯対策に関する基本的な方針や一般的な留意事項を取りまとめたものであり、さらに関係者の理解を深めるために、文部科学省等は、その内容を踏まえた具体的な対応方法や効果的な運用方法についての手引書を作成する必要がある。 学校施設の防犯対策については、各学校の様々な特性や、新築、増築、改築、改造等の整備種別等に応じて個々に検討される必要があることから、手引書には多様な学校の条件に応じたケーススタディが求められる。 さらに、学校の教職員を対象とする手引書については、開かれた学校づくりの中で児童生徒等の安全を確保するため、安全管理に関するソフト面の内容も含めた総合的なものとすることが大切である。 |
(3) | 研修会の実施 学校施設の防犯対策については、近年の社会情勢の変化により新たに対応すべき課題となってきている事柄であり、その基本的な対応方針、具体的な計画方法、防犯システム・設備の選定方法等について、学校関係者等に対して広く周知することが大切である。 従って、本報告や手引書等を踏まえ、学校関係者が防犯対策に関する知識や技術を習得することができるよう、文部科学省や地方公共団体等が、学校施設の防犯対策についてソフト面の内容も含めた研修会を企画することや、広報誌やインターネット等を利用して情報提供・交換を行うことが望まれる。 |
(4) | チェックリストやマニュアル等の作成及び活用 各教育委員会や各学校は、本報告や手引書、さらにはソフト面での安全管理取組事例集等の成果を踏まえ、個々の地域や各学校の特性に応じ、ソフト面の防犯対策も含めたチェックリスト、マニュアル等を作成することが大切である。 また、それに基づいた定期的な点検や不審者の侵入及び被害発生を想定した訓練等を行い、関係者の安全管理意識の徹底及び維持を図るとともに、改善すべき点は早急に対応するというように、実効性のある検証システムを確立することが求められる。 |
(5) | 補助事業等の積極的な活用 学校施設の防犯対策については、平成13年度より国による財政面における支援のための仕組みの整備が進んでいる。 具体的には、公立学校施設整備国庫補助において、管理諸室の配置換えや囲障の設置等の防犯対策に係る整備が大規模改造事業の補助対象に追加されたこと、安全管理対策として実施する防犯カメラや非常通報装置の設置等に係る経費が新たに地方交付税により措置されたこと、私立学校においても公立学校と同様の安全対策が実施できるよう補助制度が拡充されたこと、地域ぐるみの学校安全推進モデル事業が各地域で実施できるよう予算措置されたこと等がある*18。今後予定される学校施設整備指針の規定内容の改正等をも踏まえ、学校施設の安全管理に係る事業内容の一層の整備充実が望まれる。 また、地方公共団体等の学校の設置者は、国によるこれらの措置を十分に検討し活用することが大切である。さらに、耐震補強やバリアフリー対策等、他の学校施設整備のための補助事業と併せて防犯対策に係る整備を実施することも考えられる。 |
(6) | 海外の先進事例等の研究 学校施設の防犯対策等の安全管理については、アメリカ、イギリス等においてもこれまで積極的に取り組まれてきており、本調査研究においてもそれらの状況について現地調査を実施した。 文部科学省では、さらに引き続き、諸外国の先進事例や関連施策等の調査や分析を行い、我が国の学校施設の防犯対策に関する施策や具体的な学校の施設計画に反映させていくことが大切である。また、この場合、海外の研究者や専門家、行政担当者等と、学校施設の防犯対策に関する情報交換や意見交換を行うことも有効である。 |
(7) | ソフト面を併せた総合的な防犯対策の推進 本報告は、学校の防犯対策の中で主に施設・設備面を中心として取りまとめたものである。もとより、学校施設の防犯対策等の安全管理は、運営体制等のソフト面での取組みと一体的に行われてはじめて効果を発揮するものであり、施設・設備面での対応のみでは万全とは言えない。 現在、文部科学省では、本調査研究とも連携した「不審者侵入時の危機管理マニュアル(仮称)」や「非常災害時における子どもの心のケアのために」等の作成や改訂作業が進められているところであり、それらの成果をも踏まえ、関係者の協力のもと、学校の防犯対策を総合的かつ継続的に推進していくことが求められる。 |
学校安全及び心のケアの充実 ~ 子ども安心プロジェクトについて ~
平成14年度予算額 447,771千円 (文教施設部施設企画課)
1. | 施策の概要 昨年6月には、大阪教育大学附属池田小学校で多数の死傷者を出す事件が発生する等、学校の管理下での事件・事故などが大きな問題になっている。 文部科学省においては、このような近年の状況に鑑み、学校の安全管理や子どもたちの安全確保及び事件・事故時の子どもたちの心のケアの充実に資するための各種事業を実施する。 |
2. | 施策の内容
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学校施設の安全管理に関する補助事業等
○公立学校施設整備補助事業 大規模改造事業(安全管理対策施設整備)
(1) | 趣旨 学校施設における防犯対策の徹底を図る観点から、安全対策に資する工事に対して、平成14年度より国庫補助の対象として整備を推進する。 |
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(2) | 補助対象 公立の幼稚園、小学校、中学校、中等教育学校(前期課程)、特殊教育諸学校 |
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(3) | 補助率 1/3(財政力指数1.00超の地方公共団体は2/7) |
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(4) | 補助対象経費 1,000万円~2億円 |
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(5) | 補助対象事業 学校において安全対策上必要な次のような工事
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○公立学校の安全管理関係経費の交付税措置
公立学校における学校安全管理関係経費
(単位費用積算内訳 標準規模学校当たり 330千円)
公立学校の安全管理対策として実施する監視カメラや非常通報装置の設置等に係る経費が恒常的な経費として認められ、平成14年度より新たに普通交付税により措置された。対象は、公立の幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校。
なお、私立の専修学校における学校の安全管理対策については、専修学校補助(その他補助)の経費が標準規模都道府県当たり1,000千円増額(2,500千円→3,500千円)され、その中で実施することが可能となった。
○私立高等学校等経常費助成費補助金
(単価上乗せ総額 2,248百万円)
(1) | 趣旨 私立学校の安全対策を推進するために、防犯監視システムの設置や警備員の配置に係る経費が、私立高等学校等経常費助成費補助金の生徒等一人当たりの補助単価に平成14年度より盛り込まれた。 |
(2) | 補助対象 私立の幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校 |
○私立高等学校等施設高機能化整備費補助金(防災機能強化施設整備費補助)
(900百万円の内数)
(1) | 趣旨 私立学校における防犯対策の徹底を図る観点から、安全対策のための施設整備に要する経費を平成14年度より補助対象とする。 |
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(2) | 補助対象 私立の小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特殊教育諸学校 |
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(3) | 補助率 1/3 |
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(4) | 補助対象経費 400万円~2億円 |
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(5) | 補助対象事業 学校において安全対策上必要な次のような工事
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学校で発生した刑法犯認知件数について
1.学校で発生した刑法犯認知件数
平成8年 | 平成9年 | 平成10年 | 平成11年 | 平成12年 | 平成13年 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
凶悪犯 | 殺人 | 3 | 4 | 8 | 5 | 9 | 3 |
強盗 | 4 | 7 | 11 | 11 | 8 | 16 | |
放火 | 32 | 46 | 37 | 46 | 31 | 36 | |
強姦 | 9 | 20 | 25 | 30 | 27 | 30 | |
小計 | 48 | 77 | 81 | 92 | 75 | 85 | |
凶悪犯罪以外 | 粗暴犯 | 1,124 | 1,393 | 1,374 | 1,530 | 1,952 | 1,930 |
窃盗犯 | 侵入盗 | 7,270 | 7,608 | 7,081 | 7,329 | 7,491 | 7,438 |
乗物盗 | 10,804 | 10,761 | 10,269 | 10,058 | 10,758 | 12,065 | |
非侵入盗 | 6,680 | 6,272 | 7,436 | 8,399 | 9,942 | 10,704 | |
知能犯 | 104 | 182 | 191 | 75 | 264 | 70 | |
風俗犯 | 62 | 132 | 170 | 81 | 141 | 142 | |
その他刑法犯 | 2,836 | 3,184 | 3,499 | 4,121 | 5,965 | 9,172 | |
小計 | 28,880 | 29,532 | 30,020 | 31,593 | 36,513 | 41,521 | |
合計 | 28,928 | 29,609 | 30,101 | 31,685 | 36,588 | 41,606 |
※ | 学校には、学校教育法第1条に掲げる学校(小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校、幼稚園)、同法第82条の各種学校のほか、その実態が幼稚園と同視されるような保育所を含む |
2.刑法犯認知件数
年次 | 認知件数 | 指数 H4年=100 |
検挙件数 | 検挙人員 | 犯罪率 (10万人当) |
---|---|---|---|---|---|
平成8年 | 1,812,119 | 104 | 735,881 | 295,584 | 1,439.8 |
9年 | 1,899,564 | 109 | 759,609 | 313,573 | 1,505.2 |
10年 | 2,033,546 | 117 | 772,282 | 324,263 | 1,607.5 |
11年 | 2,165,625 | 124 | 731,284 | 315,355 | 1,709.3 |
12年 | 2,443,470 | 140 | 576,771 | 309,649 | 1,925.5 |
13年 | 2,735,612 | 157 | 542,115 | 325,292 | 2,150.6 |
※ | 交通業過を除く。犯罪率とは、人口10万人当たりの犯罪認知件数をいう。犯罪率算出に用いた人口は、各年10月1日現在の推計人口(旧総務庁統計局)又は国勢調査人口である。 |
3.平成13年の主な罪種別犯罪件数と指数(%)

学校施設の安全管理に関する調査研究について
平成13年11月13日
官房長決定
平成14年 7月24日一部改正
1 | 趣旨 近年の学校施設における犯罪の増加に鑑み,学校施設の防犯対策等の安全管理の在り方について調査研究を行う。 |
2 | 調査研究事項 (1)今後の学校施設における防犯対策の方針について (2)防犯対策に係る計画・設計上の留意点について (3)学校施設整備指針における防犯対策等の規定について (4)その他 |
3 | 実施方法 別紙の学識経験者等の協力を得て,2に掲げる事項について調査研究を行う。 なお,必要に応じて,その他の関係者の協力を求めることができる。 |
4 | 実施期間 平成13年11月13日から平成15年3月31日までとする。 |
5 | その他 この調査研究に関する庶務は,大臣官房文教施設部施設企画課において行う。 |
別紙
学校施設の安全管理に関する調査研究協力者名簿
(五十音順,敬称略)
氏 名 | 職 名 | ||
伊藤 智 | 警察庁生活安全局生活安全企画課理事官 (平成13年11月19日~平成14年8月22日) |
||
宇佐美絢子 | 愛知県半田市立亀崎幼稚園元園長 | ||
生越 詔二 | 東京都中央区立常盤小学校長 | ||
工藤 和美 | シーラカンスK&H代表 | ||
斎藤 ![]() |
横浜国立大学教育人間科学部名誉教授 | ||
定行まり子 | 日本女子大学家政学部助教授 | ||
佐野 康廣 | 国立音楽大学附属小学校長 | ||
首藤 祐司 | 警察庁生活安全局生活安全企画課都市防犯対策官 (平成14年8月23日~平成15年3月31日) |
||
瀬渡 章子 | 奈良女子大学生活環境学部助教授 | ||
谷口 賢司 | 京都市教育委員会教育企画監 | ||
○ | 長澤 悟 | 東洋大学工学部教授 | |
野村 晶三 | 社団法人全国警備業協会研修センター長 | ||
増谷 信一 | 社団法人日本PTA全国協議会監事 | ||
安井 義和 | 大阪教育大学教育学部教授・附属学校部長 | ||
山本 俊哉 | マヌ都市建築研究所取締役・主席研究員 | ||
吉澤 晴行 | 群馬工業高等専門学校長 | ||
吉村 英祐 | 大阪大学大学院工学研究科助教授 | ||
(○:主査) (16名) |
「学校施設の安全管理に関する調査研究協力者会議」の検討経緯
●第1回委員会 <平成13年12月4日>
○主査選出
・ 長澤悟東洋大学工学部教授を主査に選出
○自由討議
●第2回委員会 <平成14年1月31日>
○学校施設等の防犯対策について
・ 委員(建築設計、行政関係等)からの報告
○自由討議
●現地調査(国内)<2~3月>
○学校施設等の防犯対策に関する現地調査
名 称 | 区 分 | 所在地 |
---|---|---|
杉並区立第十小学校 | 公立小 | 東京都杉並区 |
都営蓮根3丁目第3アパート | 公営住宅 | 東京都板橋区 |
春日井市内全小学校等 | 小学校と地域の連携まちづくり | 愛知県春日井市 |
福岡市立博多小学校 | 公立小 | 福岡県福岡市 |
私立トキワ松学園 | 私立小・中・高 | 東京都目黒区 |
アミティ大森東 | 公団住宅 | 東京都大田区 |
千葉市立打瀬小学校 | 公立小 | 千葉県千葉市 |
千葉市立海浜打瀬小学校 | 公立小 | 千葉県千葉市 |
葛西クリーンタウン | 公団住宅 | 東京都江戸川区 |
私立帝塚山学院 | 私立 | 大阪府大阪市 |
大阪教育大学教育学部附属 池田小学校 |
国立小 | 大阪府池田市 |
京都市立日野小学校 | 公立小 | 京都府京都市 |
●第3回委員会 <4月3日>
○学校施設等の防犯対策について
・ 委員(防犯環境、学校安全等)からの報告
○現地調査(国内)報告
●現地調査(海外)<4月>
○学校施設等の防犯対策に関する現地調査
名 称 | 区 分 | 所在地 |
---|---|---|
Jefferson County School District Administration |
管理機関 | コロラド州 |
Charles Semper Elementary School | 小学校 | コロラド州 |
Mandalay Middle School | 中学校 | コロラド州 |
Warren Tech High School | 高等学校 | コロラド州 |
National Resource Center For Safe Schools | 管理機関 | オレゴン州 |
Springfield School District | 管理機関 | オレゴン州 |
Centennial Elementary School | 小学校 | オレゴン州 |
Agnes Stewart Middle School | 中学校 | オレゴン州 |
Safe School And Violence Prevention Office, Carifornia Department Of Education | 管理機関 | カリフォルニア州 |
Arthur Butler Elementary School | 小学校 | カリフォルニア州 |
T.R.Smedberg Middle School | 中学校 | カリフォルニア州 |
Sheldon High School | 高等学校 | カリフォルニア州 |
●第4回委員会 <5月17日>
○論点整理(報告書のフレーム検討)
・ 報告書の構成や論点について討議
○現地調査(海外)報告
●第5回委員会 <6月25日>
○報告書案の検討
●第6回委員会 <7月12日>
○報告書案の検討
・ 報告書の構成や内容について討議
●大阪教育大学附属小学校事件のご遺族との会合 <7月27日>
●第7回委員会 <8月20日>
○報告書案の検討
・ 報告書の構成や内容について討議
●第8回委員会 <9月25日>
○報告書案の検討
・ 報告書の構成や内容について討議
●第9回委員会 <10月21日>
○報告書案の検討
・ 報告書の構成や内容について討議
●第10回委員会 <10月30日>
○報告書案の確定