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生きることの壮絶さと葛藤/少年と犬(日) - 映画この一本 - 芸能コラム : 日刊スポーツ

  • ️日刊スポーツ
2025年3月23日10時0分

生きることの壮絶さと葛藤/少年と犬(日)

(C)2025 映画「少年と犬」製作委員会
(C)2025 映画「少年と犬」製作委員会

犬と暮らしていると、ドキッとすることがある。胸の内を、すべて見透かされたような目を向けられると、くぎを打ち込まれたように動けなくなり、「実はな…」。つらい思いを打ち明けてしまいたくなる。人の言葉に耳を傾け、寄り添ってくれる、そんな信頼と安心感が、犬にはある。

馳星周氏の同名の直木賞受賞作が原作。東日本大震災で主(あるじ)を亡くした犬の多聞が、ある少年に会うために、5年の歳月をかけ東北から九州へ向かう。道中、多聞と出会う人々に共通するのは心に傷を抱えていること。仙台では、震災によって職を失い、被災地の家屋から金品を盗み出してさばく窃盗団の一員の中垣和正(高橋文哉)と出会う。滋賀県では、罪を隠し続け、デートクラブで働く美羽(西野七瀬)と過ごす。

原作のダークな部分が少し足りない気がしたが、それぞれが生きることの壮絶さと葛藤し、多聞に話しかけることで1歩、前に進もうとする。多聞役のジャーマンシェパード犬・さくらとの“共演”に西野は「人間同士だと起こりえないような目だけのやりとり、犬だけの特別な能力をすごく感じた」。傷ついた人々に寄り添う多聞の凜(りん)とした姿が胸心を打つ。【松浦隆司】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)