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ローマ教皇、被爆地で核廃絶訴え「核は我々を守らず」

  • ️Sun Nov 24 2019

来日中のローマ教皇(法王)フランシスコは24日、被爆地の長崎、広島両市を訪問し、被爆者の冥福を祈るとともに、平和と核廃絶を訴えるスピーチを行った。「核兵器は安全保障への脅威から私たちを守ってくれるものではない」と核の抑止力を否定し、核の戦争目的使用を「犯罪以外の何ものでもない」と主張。個人や国家が団結して核廃絶に取り組むよう訴えた。

教皇が被爆地を訪れるのは1981年のヨハネ・パウロ2世の訪問以来38年ぶり。

教皇は24日午前、長崎市の爆心地公園で献花し、黙とうをささげた。その後、信徒や被爆者らを前にメッセージを読み上げた。

教皇は長崎を「核兵器が悲劇的な結果をもたらすことを示す証人の町だ」と表現した。その上で「核兵器や大量破壊兵器を持つことは平和や安定につながらない」と主張し、本来は人間や環境保全に使われるべき資源が軍拡競争に使われていることを「途方もないテロ行為だ」と述べた。

「核兵器から解放された平和な世界を、数え切れないほどの人が熱望している」として、核廃絶は「可能であり必要」と指摘。その実現には個人や国家、国際機関などが一致団結して取り組むべきだと訴えた。

各国の指導者に対しては「核兵器は安全保障への脅威から私たちを守ってくれるものではない、そう心に刻んでほしい」と呼び掛け、核抑止力を否定した。「私たちは多国間主義の衰退を目の当たりにしている。あらゆる国の指導者が注意を払い、この問題に力を注ぎ込むべきだ」とも述べ、国家間の相互不信の流れを食い止める必要があると強調した。

長崎市の爆心地公園で演説し、核廃絶の必要性を訴えるローマ教皇フランシスコ(右)=共同

教皇は長崎訪問の後、空路で広島に移動し、24日夜に広島平和記念公園で開かれた「平和のための集い」に参加した。

集いでの演説では「ここで大勢の人が一瞬の閃光(せんこう)と炎によって跡形もなく消され、影と沈黙だけが残った。全てが破壊と死というブラックホールに飲み込まれた」と、原爆の悲惨さを強調した。

広島平和記念公園で被爆者代表者らにあいさつするローマ教皇フランシスコ(左)=24日夜、広島市中区

戦争目的での原子力使用を「犯罪以外の何ものでもなく、倫理に反する」と強く非難。「強力な兵器を製造しながら、平和について話すことなどどうしてできるか」と問いかけ、真の平和とは「非武装の平和以外にありえない」と訴えた。

演説終盤では、原爆と核実験とあらゆる紛争犠牲者の名において「戦争はもういらない」「こんな苦しみはもういらない」と声を合わせて叫ぶよう呼び掛けた。

教皇は25日には東京で東日本大震災の被災者らと面会するほか、天皇陛下との会見や安倍晋三首相との会談が予定されている。26日に帰国の途につく。

81年のヨハネ・パウロ2世の被爆地訪問時には、教皇が広島で「戦争は人間のしわざ」という平和アピールを発表し、多くの被爆者が被爆体験を語る契機となった。

ミサに参加した信徒ら(24日午後、長崎市の県営野球場)

原爆ドームを背に広島市の平和記念公園で演説するローマ教皇フランシスコ(24日、広島市の平和記念公園)=共同

高校生平和大使から明かりをとるローマ教皇フランシスコ(左)(24日夜、広島市中区の平和記念公園)=代表撮影