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【アート 美】「ミラクル エッシャー展」 奇想生んだ「源泉」探る(2/4ページ)

  • ️産経新聞
  • ️Tue Jul 24 2018

 もう一人は父、ヘオルフ・アルノルト・エッシャーだ。実は、水力工学の技師として明治時代に5年間、日本で働いていたという。「エッシャーの版画は芸術性と技術、そして科学的知識を融合させたものですが、中でも彼の数学への興味は父譲りなのかもしれません」とソレックさん。さらに付け加える。「父親が持ち帰った日本の木版画が、後にエッシャーの作風に影響を与えたという指摘もあります」

 エッシャーの創作の源泉となった地がある。イタリアなど地中海沿岸の起伏に富んだ地形も彼を夢中にさせたが、最も強烈な衝撃を与えたのはスペイン・アルハンブラ宮殿の幾何学模様だった。作品「メタモルフォーゼ」のように、版画家は文字から幾何学模様へ、さらに鳥やトカゲや宮殿へと自由に想像を巡らせた。それはバッハのカノンのように、モチーフが連続しながら変容し、無限にループするイメージだ。

 戦後、エッシャーの芸術は英語圏の雑誌「TIME」「LIFE」などを通じて広く世界で知られたが、なぜか20世紀美術史の中で語られることは少ない。むしろ数学や科学の領域、あるいはポップカルチャーの文脈で取り上げられることが多かったようだ。

 だまし絵風だったりと視覚的面白さだけでなく、エッシャー作品の根底には、自然が生み出す美しい秩序への崇敬がある。そして「相対性」の中の、互いに近くにいながら交わることのない人々を見れば、彼の人間への深い洞察について、思わずにはいられない。(黒沢綾子)