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切羽とは

「切羽」(せっぱ)とは、刀剣を構成する刀装具のひとつ。鍔(つば)を表裏から挟むように装着する金具のことで、「物事に追われて余裕がなくなる」という意味を持つ慣用句「切羽詰まる」の語源としても知られており、その形状は刀剣の種類によって様々です。切羽の基本知識をご紹介します。

切羽詰まる
刀剣にまつわることわざを題材とした4コマ漫画をご紹介します。

切羽とは

切羽の役割

切羽

切羽

切羽の役割は、がずれてしまうことを防ぐためと言われていますが、この他にも「激しい斬り合いで目釘(めくぎ:[つか]と[なかご:刀身の中でも柄に納める部分]を固定するための留め具)が折れるのを防ぐため」、「斬るときに手へ伝わる衝撃を和らげるため」、「柄の握り具合を調整するため」、「(はばき:刀剣がから抜けないようにするための金具)や(ふち:鍔を挟んで鎺の反対側に取り付ける金具)の底から穴の縁が見えないようにするため」など様々です。

切羽は刀装具の中でも、目釘の次に消耗が激しい部位であると言われています。薄い金属板を素材にしているため、鍔の交換時や刀剣を鞘へ収める際に、ゆがみが生じやすいのです。

長く使用された切羽の表面には、鎺との接触部位にその跡が残っていることもあります。

切羽の材質

切羽の材質は、銅や真鍮などの加工がしやすく、錆びに強い金属が一般的です。

また、金や金着せ、鉄が用いられることもあり、特に金無垢は豪華な太刀拵(たちごしらえ:太刀に用いる[こしらえ]のこと)に使用されていました。

なお、この他に革製やアルミニウム製の切羽も存在します。革製の切羽は、拵にわずかなガタつきがある場合、厚みを調整するために使われており、アルミニウム製の切羽は大東亜戦争時の軍刀に用いられていました。

切羽台

切羽台

切羽台

「切羽台」(せっぱだい)とは、鍔の中央にある切羽を納める部分のこと。「切羽下」(せっぱした)とも呼ばれ、くぼんでいたり、盛り上がっていたり、その形状は様々。

切羽台は、形状や手法によって制作された年代、地域などを推測できると言われており、鍔の制作者は銘や年期を切羽台へ入れていました。

切羽の種類

太刀の切羽、打刀の切羽

太刀に用いる切羽の枚数は6~8枚です。片側に「大切羽」(おおせっぱ:最も大きな切羽)を1枚、「小切羽」(しょうせっぱ/こせっぱ)を2枚、また「中切羽」とも言われる「簓切羽」(ささらせっぱ:小切羽より厚く、縁に深い刻みがある切羽)を小切羽の間に1枚挟むこともあります。

太刀拵の鍔は「分銅鍔」(ふんどうつば)、または「葵形鍔」(あおいがたつば)の2種類があり、分銅鍔は天秤に使用する際の分銅に似た鍔で、主に儀仗用の太刀拵に使用されていました。葵形鍔は、「葵鍔」(あおいつば)とも呼ばれており、形状が植物の葵に似ていることが名称由来と言われています。なお、葵形鍔の大切羽は鍔よりひと回り小さい葵形をしているのが特徴です。

打刀の切羽は、小切羽を2枚1対で装着するのが一般的ですが、打刀の場合は大切羽を付けないため、小切羽ではなく単に切羽と呼ばれます。

太刀拵の切羽

太刀拵の切羽

陸軍の切羽

陸軍の切羽は、太刀や打刀より細かく規定されていました。士官用軍刀は太刀の形式に近いため、片側に大切羽1枚、小切羽3枚の計8枚と定められ、また小切羽は「菊刻み」、「縦刻み」、「小刻み」の3種が使用されており、縁に刻まれた模様がそれぞれで異なっています。

刀身留め(釦留め)

刀身留め(釦留め)

なお、軍刀の切羽には長方形の細長い穴が空けられていますが、これは「刀身留め」を通すための穴です。

刀身留めとは、刀身が動いたり、柄と鞘が抜けたりしないようにするための留め具のこと。刀身留めには、細長いバネ式の「駐爪」(ちゅうそう)の他、縁や鍔、切羽に空いた穴へ革バンドを通して鞘のスナップボタンやバックルと繋ぎ合わせる「釦留め」(ぼたんどめ:[革バンド留め]とも言われる)などの種類があります。

海軍の切羽

海軍の軍刀は、儀仗としての意味が強かったため、陸軍刀より華麗でした。鍔そのものに装飾や彫が施されることはほとんどなく、大切羽に「旭日」(きょくじつ:太陽と太陽光を図案化した文様)を施しているのが特徴です。小切羽は、陸軍刀同様に菊刻み、縦刻み、小刻みの3種が使用されていました。

切羽の作り方

切羽を制作するのは、鎺などを制作する白金師(しろがねし)と呼ばれる職人です。制作工程や使用する道具は職人によって異なりますが、おおまかな流れは同じと言われています。

  1. 事前に必要な厚みを測っておき、金属類の板を用意する。
  2. 糸鋸(いとのこ)などを使って少し大きめに切羽の形状を切り出す。
  3. 金属板の中央に茎穴(なかごあな:茎を通す穴)を空け、鑢(やすり)などで整える。
  4. 鯉口(こいくち:鞘の入り口部分)、及び縁に合わせて金属板へ印を付け、少し大きめに切り取る。
  5. 切羽の作り方(①~④)

    切羽の作り方(①~④)

  6. 切羽の縁を鑢などで研磨し、鍔などと合わせて観て、切羽の形状に問題がないかを確認する。
  7. 切羽の表面に紙鑢等で縦の鑢目を付ける。
  8. 切羽の裏面に鑢で縦と横の鑢目を付ける。
  9. 切羽の縁に筋目鑢(すじめやすり)を使って筋を付け、紙鑢で軽く研磨して完成。

切羽の作り方(⑤~⑧)

切羽の作り方(⑤~⑧)

なお、切羽は元来、1枚の板から作られていました。素銅で作る場合は、素銅を熱して金槌で叩く作業を繰り返し、最適な厚さにしていましたが、現在では様々な厚みの金属が販売されているため、叩いて伸ばすという昔ながらの工程はほとんど行なわれていません。

一方で、熱して叩き締めていないことから、すぐに金属が伸びて緩んでしまうため、現代の切羽は強靭さがないと言われています。