“EV競争”の陰の主役! 大手車載電池メーカーの意外な横顔を見る - webCG
最大手CATLの技術は日本がルーツ
にわかに世界で盛り上がる自動車電動化の波。名だたる完成車メーカーがこぞって「2030年までにEV(電気自動車)比率を●●%に……」といった戦略を打ち出している。しかし、完成車メーカーの努力だけではEV比率を引き上げることはできない。いま、各社が車両の開発と並んで躍起になっているのが、必要なだけの車載電池をいかに確保するかだ。ここに来て内製に乗り出す完成車メーカーも増えているが、大部分は依然として電池メーカーから調達している。そこで今回は、黒子でありながら主役並みに重要な、車載電池メーカー上位3社の意外な横顔を紹介していきたい。
まず紹介しなくてはならないのは中国CATLである。韓国SNEリサーチの調査によると、2020年に146GWhだった世界の車載電池の生産量は、2021年には296GWhと、2倍以上に伸びた。そうしたなかで、世界シェアを2020年の24.6%から8ポイント増の32.6%に拡大し、トップの地位を不動のものにしたのが中国CATLだ。
実は同社のルーツは、日本のTDKにある。CATLの母体となったのは香港ATLという電子機器向けの電池スタートアップ企業であり、ATLの立ち上げメンバーが元中国TDKの社員だったという縁から、2005年にTDKがATLを買収・子会社化した。このATLの車載電池部門が分離・独立して2011年に発足したのがCATLである。現在では中国の現地メーカーのみならず、日本メーカーをはじめとする外資との主要合弁メーカーも、こぞって中国で販売するEVにCATL製の電池を使っている。
歴史の新しいCATLに対し、世界第2位のLGエナジーソリューションは、長い下積み時代を重ねてきた。LGは早くから車載電池の有望性に目をつけていたが、飛躍のきっかけになったのは、2010年に米ゼネラルモーターズの「シボレー・ボルト」(初代のプラグインハイブリッド車、16kWhのリチウムイオン電池を搭載)に採用されたことだ。LGは2013年には5.6GWhと、ボルト35万台分にあたる当時としては巨大な製造設備を整えたが、電動車の世界需要はLGのもくろみどおりには拡大せず、その後は雌伏を余儀なくされた。しかし最近では、独フォルクスワーゲンや米GM向けに生産を拡大。2020年にはそれまで2位だったパナソニックを抜き去って、2位に躍り出た。
傍流から出発したパナソニックのEV事業
3位パナソニックの車載電池事業も、実は数奇な運命をたどっている。今でこそ、同社の車載電池事業で大きな比率を占めるのはテスラ向けの電池だ。しかし、かつてパナソニックの車載電池事業の主流は、トヨタ自動車のハイブリッド車向けであり、その生産を担うのはトヨタとの合弁会社として1996年に設立されたパナソニックEVエナジー(現在のプライムアースEVエナジー)であった。
一方、2003年に設立されたテスラは、2008年に最初の製品である「ロードスター」の生産を開始したが、当時、弱小のEVベンチャーにすぎなかった同社に車載電池を供給するメーカーはなかった。このとき、松下電器産業の電池子会社だった松下電池工業(現在はパナソニックが吸収合併)が、テスラの求めに応じてパソコン用の18650電池を供給。これがパナソニックがEV事業へ進出するきっかけとなった。つまり、パナソニックのEV用電池事業は、子会社の手がける傍流のビジネスから出発したのである。
その後、トヨタ製ハイブリッド車の好調やテスラ躍進のおかげで、一時は世界最大の車載電池メーカーとなったパナソニックだが、2017年にCATLに抜かれ、2020年にはLGの後塵(こうじん)も拝する3位に転落した。韓国SKBや中国BYDの追い上げも厳しい。さらに最近では、同社の主要な取引先であるテスラやトヨタが、車載電池を内製化する動きも拡大している。パナソニックの車載電池事業が今後も大手の一角にとどまるためには、トヨタ、テスラ以外の顧客を開拓していく努力が必要だろう。
もっとも、次なる手が必要なのはパナソニックだけではない。現在の勢力図がこのまま続くわけではないのだ。今のところは中国、韓国、日本のメーカーが中心となっている車載電池業界だが、大きく業界地図が塗り替わる可能性も出てきた。というのも、これまで車載電池メーカーが育っていなかった欧州で、新興メーカーであるスウェーデンのノースボルトが台頭してきたからだ。同社はテスラの元幹部が2016年に立ち上げた電池ベンチャーで、欧州の金融機関やフォルクスワーゲン、ボルボといった欧州完成車メーカーが相次いで出資。2024年までに生産能力を60GWhに高めるとしており、これはおよそEV 100万台分にあたる。中・日・韓に欧州メーカーも加わり、今後はEV用電池を巡る競争がますます激しさを増しそうだ。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=LGエナジーソリューション、テスラ、トヨタ自動車、ノースボルト、パナソニック、メルセデス・ベンツ/編集=堀田剛資)
鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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