ノーベル文学賞、受賞のヨン・フォッセはどんな人?…20年来の友人がつづる
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- ️Tue Oct 10 2023
フォッセは、「波は、すべてを語ってくれる。書くことは、聞くこと」だという。波に耳を傾け、そこから聞こえてくる「何か」の声、「見えないもの」へ言葉を与える。句読点のない文章は、寄せては返すフィヨルドの波のように反復し、始まりも終わりもない。死者と生者は行き来し、空間と時間の境も消える。若き頃親しんだロックやバッハのフーガのリズム、永遠なる反復の波のリズムで織りなす作品を、フォッセは“song”と呼ぶ。そして自分を、戯曲家、小説家ではなく「詩人」と定義する。ストーリーには興味を持たず、人間間、言葉と言葉の間、沈黙の間というコミュニケーションの磁場で引き合う力は何かを問う。リズム、フォーム、反復、ミニマルな書き言葉で構成される文体は、数学のように計算され構築されている。
1000ページ超え、3巻の大作を発表
2年前フォッセは、集大成とも言える大作『七部作』を 上梓 ( じょうし ) した。今回のノーベル賞は、この作品への授与が決定したのだろう。1000ページを超える大作は3巻に分けられ、各々タイトルは、1巻は「もう一つの名前」、2巻はアルチュール・ランボーを引用した「私は、一人の他者である」、3巻は「新しい名前」。13~14世紀の神学者マイスター・エックハルトの神秘主義に傾倒し、ハイデッガーの思想に感化されながらも、フォッセは、2013年クエーカー教からカトリックへ改宗した。宗教への懐疑は依然ありながらも信仰への道を選んだ。大作の最終ページは、「祈り」で終わる。全ての作品は、「同じことのヴァリエーション」だと、フォッセは言う。全作品は、唯一のモノローグであり、暗いフィヨルドの光の中から聞こえてくる人間存在への「祈り」だと思う。